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11月, 2010の投稿を表示しています

重水素燃料を海水から取り出すためのエネルギー

核融合発電燃料重水素(水素の同位体)ガスです。海水中に無尽蔵に存在するため、枯渇する心配がありません。ところが、水素の中の重水素の存在比率は0.015%しかありません。「重水素を抽出するために、莫大なエネルギーを使わないのですか?」と質問をされることがあります。その質問にお答えしたいと思います。

☆上の絵は、水の中の分子の様子を表したものです。ほとんどの水分子では、水素(青い玉)2個と酸素(黄色い玉)1個がくっついている状態が、ほんの一部だけは重水素(赤い玉)と酸素がくっついています。この重水素と酸素が結合した水のことを「重水」と呼びます。また普通の水素でできた水を「軽水」と呼びます。(「重水」と「重水素」は違うものですのでご注意ください。また実際には水素1個と重水素1個と酸素1個が結合した水分子があるのですが、話しを簡単にするためにここでは省略します。)
☆「軽水」と「重水」を分離する技術は、すでに工業化されています。新しい方法としては、電気分解を使う方法があります。電気分解(電気で水素と酸素に分解すること)すると、「重水」より「軽水」の方が早く分解します。だから部分的な電気分解を繰り返すと「重水」だけが濃縮されて残っていくというしくみです。 ☆「重水」ができれば、後はこれを、完全に電気分解すれば「重水素」ガスと酸素ガスに分解できます。重水素はこうのようにして生産されます。
☆さて問題は、重水素の生産に必要なエネルギーです。生産過程では「重水」生産がほとんどのエネルギーを使います。論文で調べると、1kgの重水を生産するのに必要なエネルギーは57MWh(メガワット時)ということでした。一方、1kgの重水には200gの重水素が含まれてます。この重水素を使って核融合反応を起こすと38,000MWhのエネルギーが発生します。これは重水生産に必要なエネルギー(57MWh)の約700倍になります。つまり、燃料生産に必要なエネルギーは、発電されるエネルギーに対して十分に小さいという結果になります。
(参考:R. Dutton他、Nuclear Engineering and Design 144 (1993) 269)

核融合反応から熱エネルギーを取り出す

核融合発電は、重水素三重水素プラズマ燃焼させて、その熱をエネルギーとして取り出します。ところが、プラズマに何かを差し込んで、熱を直接取り出すことができません。プラズマは確かに1億度という高温ですが、希薄(粒子の密度が大気の10万分の1程度)なガス体であるために、何かを差し込むとプラズマの温度が瞬時に下がって燃焼が止まってしまいます。それではどうやって熱エネルギーを取り出すのでしょうか?

☆水素プラズマは、1億度になると核融合反応を開始します。その時に発生するのがヘリウムの原子核と中性子です。核融合反応で発生するエネルギーは、このヘリウム原子核と中性子の運動エネルギーに受け渡されます。つまり中性子が、非常に速い速度(光速の10~20%の速さ)でプラズマから飛び出してきます。(ヘリウム原子核は磁場のカゴで閉じ込められ、プラズマの追加熱に使われます)

☆プラズマから飛び出してきた中性子は、ブランケットと呼ばれる板(厚さは約1メートル)に当たり、ここで速度を落とし、熱を発生します。つまり中性子の運動エネルギーが熱エネルギーに変わるということです。ブランケットの中には冷却材となる水やヘリウムが流れていて、暖められた冷却材が熱エネルギーを外に取り出します。運転中のブランケットの温度は500℃ぐらいになります。

☆ブランケットはまだ開発段階です。構造も材料もいろいろな候補があります。ブランケットがちゃんと機能するかどうかは、中性子が発生する核融合炉の中でしか確かめられません。しかし現時点では、まだそのような核融合炉が実現していません。それがブランケット開発の大きな課題となっています。「卵が先か、鶏が先か」と少し話が似ています。

本の紹介「持続可能なエネルギー『数値』で見るその可能性」

デービッドJ.C.マッケイ著、村岡克紀訳:持続可能なエネルギー「数値」で見るその可能性、産業図書(2010)
☆イギリス・ケンブリッジ大学物理学科の教授が書いたこの本は、前書きに「持続可能なエネルギーについての無駄口(twaddle)を打ち切りたい」と書いているように、「感情的でなく意味のある数値」でエネルギーについて議論しようという目的で書かれたものです。つまり「数値について率直に書いた本」なのです。☆実は、彼のホームページでは自由に本文も図も無料でダウンロードすることができます。(http://www.withouthotair.com/から)でも英語より日本語の方が読みやすいので、少々値段はしますがハードカバーの立派な本を購入しました。核融合の入門書「フュージョン宇宙のエネルギー」と訳者が同じで、日本語訳も読みやすいです。☆さて今、少しずつ読み進めているところですが、数値が前提の話しになっているので、説得力があります。例えば次のような図が最初のほうにあります。これは、過去からのCO2濃度のグラフです。1769年はジェームズ・ワットが蒸気機関の特許を得た年です。このグラフにはなんの誇張もなく、産業革命とともにCO2の濃度が増加してることが一目でわかります。☆この本を読んで「無駄口」をたたかないようにちゃんと勉強しようと思います。