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常温核融合についての最新の研究結果

先日、科学雑誌Natureに「常温核融合」についての最新の研究結果が発表されました。もう忘れかけていた話題であり、かつ著名な雑誌への投稿ということで興味津々でした。そして、この研究が2015年からGoogleが出資して始められたことがまた驚きでした。 さてその研究成果ですが、要旨部分を訳すと次のとおりです。 「1989年の常温核融合を見つけたという主張は、将来のクリーンエネルギーになるかもしれないとして広く歓迎された。しかしその後、その現象の再現に失敗すると、学界はこの主張に対する疑念を強めた。そして事実上、この研究を続けることが許されなくなった。そのような判断が時期尚早だったかももしれないと思い立ち、常温核融合が科学的厳格さを持つ高い水準に達するまで再評価する複数の研究機関によるプログラムに着手した。ここでは私たちの成果について述べるが、そのような現象のいかなる証拠も今のところ得ていないということである。とはいえ、我々の研究の副産物は、高水素化金属や低エネルギー核反応についての新しい洞察を得たことである。そして、この未開のパラメータ空間の中には、まだ完了していない非常に興味深い科学が残っていることを我々は主張する。」 上手く日本語に訳せていませんが、ニュアンスは間違ってないと思います。つまり、「そのような現象(常温核融合のこと)のいかなる証拠も今のところ得ていない」ということなので、常温核融合は結局再現できなかったという結論でした。ですが、研究の過程で様々な未知の現象が見つかっているようです。 参考:Curtis P. Berlinguette, et al., Revisiting the cold case of cold fusion, Nature volume 570, pages 45–51 (2019)

空の太陽と地上の太陽「核融合発電」の違い

☆太陽中心では、4個の水素の原子核が融合して、最終的にヘリウムに変わる核融合反応(原子核が融合する反応)が進行しています。このとき、約0.7%の 質量が消失 して、そのエネルギーが光(電磁波)として放出されています。今も太陽は、1秒間に約42億キログラムずつ軽くなっているそうです [1]。でも太陽は想像以上に巨大なので、あと50億年は核融合反応を続けられます。 太陽中心で起こっている核融合反応 ☆ところがこの反応(特に最初の水素同士の融合反応)は、非常にまれにしか起こりません。個々の水素原子核について見ると、その寿命が10億年、つまり10億年に1回くらいしか反応しないそうです。だから、太陽の中心のエネルギー発生密度は、1立方メートルあたり270ワットしかありません [2]。(ちなみに人間は約1,000ワット)これでは、たとえ小さな太陽を地上に作ったとしてもエネルギー源にはならないことは明白です。 ☆そこで、地上の太陽「 核融合発電 」では、普通の水素ではなく、その同位体である 重水素 と 三重水素 の核融合反応を使います。(重水素の記号Dと三重水素の記号Tを使ってD-T反応とも言います)これが一番起こしやすい、確率の高い反応だからです。幸い地球上には初期の宇宙で作られた重水素が残っていました。海には50兆トンもの重水素があります。三重水素は、自然界にあまり存在しませんが、同じく海水に含まれる2,000億トンの リチウムから生産 することができます。地球上には奇跡的に核融合発電に使用できる燃料が存在していたのです。もし、これらが地球上に存在しなければ、核融合発電の構想は生まれなかったでしょう。 地上の太陽「核融合発電」で用いる核融合反応 ☆D-T反応では、 中性子 とヘリウムが発生しますが、 中性子の運動エネルギーを熱エネルギーに変換 して発電に使います。一方、ヘリウムの運動エネルギーは、プラズマの温度を維持するために使われます。いずれにしても、この反応は 核分裂反応 と異なり、中性子を介在した連鎖反応でないことが分かります。従って、止めることが容易であり、原理的に暴走しません。 参考文献 [1] Newton別冊「アインシュタインの世界一有名な式 E=mc2」 [2] ローレンス・リバモア国立研究のWebペ...

核融合と核分裂のエネルギー比較

核融合も 核分裂 も 原子核の質量欠損 を使ったエネルギーなので、少量の燃料で大きなエネルギーを得ることができます。工学的に大きな意味はないのですが、核融合と核分裂のエネルギーを比較してみましょう。 1個のウラン(U)原子核が核分裂したときに発生するエネルギーは、約200MeV(メガ電子ボルト)です。(MeVは物理で使うエネルギーの単位です。大きさを比較するだけなので、ここでは詳しい説明は省略します)一方、1個の 重水素 (2H)原子核と1個の 三重水素 (3H)原子核が核融合したときに発生するエネルギーは、約17MeVです。そうです、1回の反応で発生するエネルギーは、核分裂の方が核融合より約10倍大きいことが分かります。 ところが、こんな比較もできるのです。同じ燃料の重さから発生するエネルギーの比較です。ウランは水素よりかなり重たいので、燃料の単位重さ当たりで発生するエネルギーは、逆に核融合の方が核分裂より4倍大きくなります。 もっと分かりやすく表現すると、核分裂の燃料ウラン1グラムは「石炭3トン分」のエネルギーに相当します。一方、核融合の燃料(水素)1グラムは「石炭13トン分」に相当します。さらに、これは「石油約8トン分」です。いずれにしても、少ない燃料で大きなエネルギーが得られることにかわりありません。 ※ここでは反応で生まれるエネルギーを計算しました。発電所で電気エネルギーに変換すると、発電効率がかけ算されるので、少し数字が変わります。

核融合発電所で使われる実際の燃料と反応

☆ 核融合発電 に利用される反応は、水素の同位体である重水素と三重水素(トリチウムとも呼ばれます)の融合反応です。 重水素 は、自然の水の中にも含まれる安定な物質です。(水はH2Oなので、Hの部分が水素で、一部が重水素)普通の水素と重水素の自然界の存在比率は、99.985%と0.015%です。少ないように思いますが、海水を含めた水は、地球上に莫大にありますから、重水素は無尽蔵の燃料資源といってよいでしょう。 ☆一方で、 三重水素 は自然界にはほとんど存在しません。また半減期が12年の放射性物質です。ほっておくと弱い電子を放出して、ヘリウムに変わっていきます。ですから、三重水素は燃料資源にはならないのです。だったらどうして核融合発電が成り立つのでしょうか。上の絵を見て下さい。(橙玉が陽子、青玉が中性子を表しています)重水素と三重水素の融合反応で出来た中性子がリチウムに当たって、三重水素とヘリウム(絵の一番右)が出来ています。この出来た三重水素を最初の融合反応に使うのです。三重水素はグルグル回っているだけで、外から供給する必要はありません。 ☆当然、上の リチウム は外から持って来なければいけません。リチウムは、鉱物、塩湖から採取できる比較的豊富な資源で、パソコンや車の2次電池としても普通に使われています。(リチウムイオン電池とも呼ばれています)また海水にも含まれているので、リチウムの資源量もほぼ無尽蔵です。(海水からリチウムを採取する方法はまだ開発中ですが)そこで、核融合発電の実際の燃料は重水素とリチウムの2つということになるので、核融合発電の燃料資源が無尽蔵といえるわけです。 ☆上の絵を見て、反応の後に残るもの(灰とも言います)が何か分かりますか。ヘリウムだけですよね。ヘリウムは安定で無害、温暖化ガスでもオゾン層破壊物質でもありません。外に捨てても問題ありませんが、貴重な資源なので、再利用しましょう。 ☆ 三重水素 は放射性物質ですが、上の上の絵のとおり発電所の中で循環しています。その量は1つの発電所の中で5キログラム程度です。(原子力発電所内の放射性物質の量と比べると桁違いに少ないです)金属の容器や配管の中に(何重にも)閉じ込められているので、外には出てきません。回収しきれないものが外に出てくるかもしれませんが、その量は法...

核融合が起きるしくみ

☆核融合というのは、2つの原子核をくっつける(融合)させることです。その仕組みについてお話ししようと思います。2つの原子核をその直径程度の距離(1兆分の1センチメートル)に近付けると強力な引力が働きます。これを核力と呼びます。そして原子核同士が融合します。これが核融合です。引力が働いてくっつくので、なんか簡単なことのように思えます。 ☆ところが、この距離から少しでも離れていると、今度は逆に反発力が働くのです。原子核(陽子)がプラスの電気を帯びているので、電気(静電)的な反発力と呼びます。そして比較的遠くまで働きます。さて困りました。核力が働く距離に近付けるまでは、この反発力に打ち勝たなければいけません。 ☆この状況は、上の絵のように、山状になったグリーンの頂上にあるカップにゴルフボール(赤い玉)を入れるのに似ています。カップに向かってボールを打ち、見事カップに入ると穴に落ちていきます。(これで黄色の玉と赤い玉が融合)上り坂が反発力で、カップの穴に落ちるのが吸引力です。このたとえのように、核融合を起こすのは結構難しいことなのです。 ☆核融合を起こすためには、電気的な反発力に打ち勝つだけの力(速度)を原子核に与えなければいけません。 核融合発電 の場合は、水素の同位体( 重水素 と 三重水素 )の原子核に、毎秒1,000キロメートルという速度を与える必要があります。これを温度に換算するとなんと 1億度 になります。そして上手く2個の原子核を衝突させることができたら、今度は核力による引力が働くことで、大きなエネルギーが発生します。これを利用するのが プラズマ (希薄な高温ガス)を利用した 核融合発電 で、今、 全世界で研究 が行われています。 ☆ちなみに、ウラン235に中性子が吸収されて分裂が起こる核分裂反応では、中性子が電気を帯びていないので、上の核融合のような反発力が働きません。だから核融合より簡単に起こすことができるのです。

核融合と核分裂の違い

★原子力発電所の事故以来、『核分裂』と言うべきところを『核融合』と言い間違えている発言をよく耳にするので、ここはしっかりと訂正しておきたいと思います。(こんな時期なので黙っておこうと思ったのですが、わたしにも少しは主張する権利があると思い・・) ★原子力発電所で起こる反応は『核分裂(カクブンレツ)』です。ウランのような重たい原子核が分裂して2つに割れることを『核分裂』といいます。(上側の絵)原子力発電所で『核融合』が起こることはありえません。(原子力発電所で起きた水素爆発は、水素と酸素の化学反応で、核融合ではありません)ついでに高速増殖炉(もんじゅ)も『核分裂』です。 ☆『核融合(カクユウゴウ)』は、水素のような軽い原子核が二つくっついて、一つになることです。(下側の絵)今、 世界中で研究 が行なわれている 『核融合』発電 は、水素をくっつけて(融合して)、ヘリウムにする 制御された 核融合反応 を使います。その時、『核分裂』を使うことはありません。 ☆だから、次のことは自明です。 『核融合』発電ではウランを使いません 。だから、 爆発もしない し、 暴走もしない し、連鎖反応もしないし、再臨界もしないし、メルトダウンもしないし、核燃料もないし、核物質もないし、核不拡散問題もないし、高レベル放射性廃棄物もありません。 【水素爆弾との違いは 私の別の記事 を参照ください】 ☆初期(まだ実現まで25~30年くらいかかるけど)の『核融合』発電も、 トリチウム(三重水素) という放射性物質(半減期が12年)を扱うため、100%クリーンとはいえません。しかし、放射能漏れによる潜在的リスク(発電所が保有する放射性物質の強さの合計)は原子力発電の1000分の1以下です。だから 最悪の事故 を考えても、周辺住民が避難するような事態にはなりません。

未来の核融合発電〜DD反応と直接発電

☆近未来の 核融合発電 では、 重水素 と 三重水素 ( リチウム から炉内で生産)を反応(これを DT反応 といいます)させてエネルギーを取り出します。発生する 中性子を熱に変換 し、この熱で水を沸騰させて蒸気タービンを回し、発電します。蒸気タービンを回して発電するところは、火力発電や原子力発電と同じです。ここで、多くの人に次のような指摘を受けます。蒸気タービンの発電効率は40%ぐらい、残りの60%は熱として環境に放出するので、地球環境に影響を与えるのではと。(排出した熱が環境に影響を与えるかどうかの議論は別の機会として)核融合発電は、「直接発電」を使って発電効率をもっと高くできる可能性を秘めています。 ☆ プラズマの温度 をもっと高く(数億度に)できると、三重水素を使わずに、 重水素 だけで燃やすことができます。上の図はその反応を示したものです(触媒DD反応といいます)。もしこの反応が実現したら、完全に海水中の 重水素 (資源は無尽蔵!)だけで発電できます。そしてエネルギーを持った陽子(=水素の原子核)は、正の電気を帯びているので、熱エネルギーに変換せずに、直接電気に変えることができます。これを「直接発電」といい、発電効率は90%を超えるといわれています。一方、同時に発生する中性子のエネルギーはやはり熱に変えるしかありませんが、全体としての発電効率は70%くらいになるでしょう。 ☆初期の核融合発電ではDT反応を使いますが、いつか人類はDD反応を使って発電を成功させるでしょう。それは100年後かもしれません。月、木星、土星に沢山あるヘリウム3をもし採取することができれば、 D-3He反応 を使ってさらに効率のよい発電ができます。(これは少しSFの世界かな。)夢はいつか夢でなくなる。それまで人類が仲良く暮らしていけたらですが。 (参考:「核融合」新OHM文庫)

核融合反応から熱エネルギーを取り出す

☆ 核融合発電 は、 重水素 と 三重水素 の プラズマ を 燃焼 させて、その熱をエネルギーとして取り出します。ところが、プラズマに何かを差し込んで、熱を直接取り出すことができません。プラズマは確かに 1億度という高温 ですが、希薄(粒子の密度が大気の10万分の1程度)なガス体であるために、何かを差し込むとプラズマの温度が瞬時に下がって燃焼が止まってしまいます。それではどうやって熱エネルギーを取り出すのでしょうか? ☆水素プラズマは、1億度になると 核融合反応 を開始します。その時に発生するのがヘリウムの原子核と 中性子 です。 核融合反応で発生するエネルギー は、このヘリウム原子核と中性子の運動エネルギーに受け渡されます。つまり中性子が、非常に速い速度(光速の10~20%の速さ)でプラズマから飛び出してきます。(ヘリウム原子核は 磁場のカゴ で閉じ込められ、プラズマの追加熱に使われます) ☆プラズマから飛び出してきた中性子は、ブランケットと呼ばれる板(厚さは約1メートル)に当たり、ここで速度を落とし、熱を発生します。つまり中性子の運動エネルギーが熱エネルギーに変わるということです。ブランケットの中には冷却材となる水やヘリウムが流れていて、暖められた冷却材が熱エネルギーを外に取り出します。運転中のブランケットの温度は500℃ぐらいになります。 ☆ブランケットはまだ開発段階です。構造も材料もいろいろな候補があります。ブランケットがちゃんと機能するかどうかは、中性子が発生する核融合炉の中でしか確かめられません。しかし現時点では、まだそのような核融合炉が実現していません。それがブランケット開発の大きな課題となっています。「卵が先か、鶏が先か」と少し話が似ています。

太陽と「地上の太陽」の違い【3】

☆以前、太陽中心で起こっている核融合と「地上の太陽」と呼ばれている 核融合発電 の違い( 【1】 と 【2】 )を紹介しました。それは次の二つの大きな違いです。 水素ガス(プラズマ)の圧力:   太陽 2500億気圧   発電 数気圧 水素ガス(プラズマ)閉じ込めの原理:   太陽 重力(地球の30万倍の重さ)   発電 超伝導磁石を使った強い磁場 ☆すでに紹介したことがあるのですが、最後に三つ目の違いを紹介します。それは、融合(フュージョン)反応を起こしている水素の種類の違いです。 ☆太陽では、水素の原子核が2個(つまり陽子が2個)融合して 重水素 (陽子1個と中性子1個の原子核)になる反応が最初に起こります。引き続いて重水素が別の融合反応を起こして、ヘリウムに変わっていきます。最初の水素同士の融合反応はとても起こりにくい反応なので、太陽と同じことを地上で実現し、エネルギー源とすることはまず不可能です。 太陽の融合反応 ☆一方、地上の 核融合発電 では、燃料に水素ではなく、 重水素 と 三重水素 (陽子1個と中性子2個の原子核)を使います。これは融合反応を一番起こしやすい水素の仲間(同位体)です。幸いにも地球上には初期の宇宙で作られた重水素が残っていました。海には50兆トンもの重水素があります。( 水の形で )三重水素は、自然界にほとんど存在しませんが、同じく海水に含まれる2000億トンの リチウムから生産 することができます。偶然というか、奇跡というか、自然界にはエネルギー源となりうる融合反応の燃料が存在していたのです。もしこれらの燃料が地球上になければ、核融合発電の実現可能性はゼロだったでしょう。 核融合発電の融合反応

太陽や星で核融合が起こっていることを明らかにしたのは誰?

☆太陽や星で核融合反応が起こっていることを明らかにしたのは誰で、いつ?東京大学立花ゼミのHPに「戸塚洋二の科学入門」 ( 外部リンク ) という興味深い解説記事があります。そこにこの答えが書かれていました。「1939年、アメリカのコーネル大学に所属する当時33歳のハンス・ベーテ博士が1編の論文を発表しました。タイトルは、『星のエネルギー発生について、“Energy Prodaction in Stars"』でした。この論文は太陽を含む恒星のエネルギーが核反応によって作られることを初めて明らかにしたものです。」1939年と言えば約70年前のことです。 ☆最初に発表されたのは、たった1ページの短い論文(編集者への手紙)で、星や太陽で起こっている核融合反応や、太陽の中心は2000万度であることが書かれてました。今の教科書には、太陽の中心温度は1500万度と書かれているので、ほとんど同じです。 ☆でも実は「太陽のエネルギー源の本当の検証は、最近になってようやく完了しました。」その検証に大きな役割を果たしたのが戸塚先生です。その先生が核融合発電についても言及しています。「エネルギー発生効率の高い核融合、つまり『地上に太陽を作る』ことを推進すべきです。燃料は水素の同位体ですから、地球上に無尽蔵にあります。」この言葉に私も少し勇気をもらいました。 (括弧内はすべて、 立花ゼミHP「戸塚洋二の科学入門」 より引用させていただきました) ☆本も出版されています。「戸塚教授の『科学入門』E=mc2は美しい!」講談社(2008)です。ぜひ読んでみてください。

核エネルギーのはなし

☆『エネルギー』には色々な形があって、私たちはそれらを上手く変換して使っています。例えば風力発電所では、風の力(力学的エネルギー)で羽と発電機を回し、電気(電気エネルギー)に変換して使います。エネルギーには他にも化学エネルギー(例えば石油を燃やす)、光エネルギー、熱エネルギーなどがあり、そのまま使ったり、変換したり、蓄えたりして使っています。 ☆ここでお話しするのは、『核エネルギー』のはなしです。これは原子力発電所で使われているエネルギーの形であり、また将来、 核融合発電所 でも使われるエネルギーの形です。『核エネルギー』と聞くとちょっと尻込みしてしまいますが、「物質そのもの=エネルギー」という、かのアインシュタインが発見したエネルギーです。 ☆上の式は「アインシュタインの式」と呼ばれる有名な式です。Eはエネルギー、mは静止した物体の質量、cは光の速さを表してます。アインシュタインは質量をエネルギーに変換できることを発見したのです。質量をエネルギーに変換する完全な方法は、物質に反物質をぶつけて消滅させることですが、自然界に反物質がほとんど存在しないために、実用性がありません。 ☆ところが、原子核(すべての原子の中心にある粒子)が分裂したり、融合したとき、反応の前と後で質量の合計が少しだけ減少することがわかりました。その減少した質量分だけ、エネルギーが発生します。この「原子核の質量減少から生まれるエネルギー」を一般に「核エネルギー」と呼んでいます。 ☆原子力発電所では、重たい原子核(ウランやプルトニウム)を2つに割った(分裂した)ときに発生する核エネルギーを使います。一方、核融合発電では、軽い原子核(水素の仲間)を2つ融合したときに発生する核エネルギーを使います。現在、発電に利用できる核エネルギーはこの2つだけです。

太陽の核融合の不思議

☆いつも見ている太陽ですが、実は内部のことはあまり知られていません。私なりに勉強したことをまとめてみます。(間違っていたらコメントください)太陽の中心(コア)で起こっていること、それは核融合反応です。上の絵のように水素の4つが融合してヘリウムに変わる反応です。この反応が太陽の半径の30%より中心で起こっています。融合したときに発生するガンマ線が太陽のエネルギー源になります。 【不思議1】この融合反応は、とてもゆっくり起こります。つまりめったに起きないということです。だから太陽の中心の発熱量は同じ体積で比較して 人間の体内の発熱量の1/10 しかありません。(1立方メートルあたり、太陽中心は270ワット、人間は2000ワット)なのにどうして太陽は熱いのか?それは巨大だからです。言い換えると、巨大でゆっくり反応しているおかげで、太陽は50億年も燃え続けているのです。そしてこの後50億年燃え続けます。 【不思議2】教科書などで、太陽の中心は光輝くように白く描かれています。(周りが赤色)これはどうも間違いのようです。温度が高い(1500万℃)ので、白く輝いているようなイメージが生まれるのでしょう。太陽の中心で発生しているのはガンマ線なので、目に見える色はありません。だから 中心の色は暗黒 なのが正解です。ガンマ線は外に行くに従ってエネルギーを失っていき、目に見える光に変わって行きます。これを色で表現すると上の絵のようになります。 【不思議3】中心で発生したエネルギーは表面に到達するまでに 100万年 もかかるそうです。私たちが見ている太陽の光は100万年前に起きた核融合反応に由来するものです。中心部から表面に向かってエネルギーは光によって運ばれます。なにもなければ光は速いものですが、太陽の中は圧縮された水素で霧がかかったようになっていて光が透りにくくなっています。だから光でも時間がかかってしまうのです。 参考: アメリカの研究所が作った教育用Webページ(外部リンク)    G.マクラッケン、P.ストット著「フージョン宇宙のエネルギー」

1億度のプラズマを閉じこめる容器

☆ 以前、太陽で核融合反応が起こっている原理 を説明しましたが、全く同じことを地球上で起こすことは不可能です。太陽は水素でできているにも関わらず、あれほどの大きさと重さを持っているので、核融合反応を起こすことができています。地球上では、せいぜい大きさが20~30メートルの装置の中で プラズマを作って、核融合反応 を起こします。その方法を簡単に絵に書いてみました。まずプラズマを作る容器の中の空気を抜いて真空にします。容器は空気が入ってくるような孔が開いていない金属製の真空容器です。そしてそこに薄い水素ガス(室温)を入れます。(大気圧の数10万分の1の薄さなので、ほとんど真空です)太陽との大きな違いが、 燃料の水素が真空状態の薄いガス であるということです。次に電子レンジのように電波を使ったりして人為的に暖めます。これで 1億度 に温度が上がり、水素が プラズマ状態 になり、最終的に核融合反応が起こることで発電が可能になります。 ☆このときよく受ける質問が「どうして容器の壁が溶けないのですか」です。実は、 高温のプラズマ は容器の壁に触れていません。プラズマができる 容器の外側には超伝導磁石 があって、磁場の力でプラズマは空中に浮いています。ここが不思議なところです。そしてプラズマと壁の間は真空で熱が伝わりにくくなっています。まるで魔法瓶と同じです。それでも一部の熱が金属の壁にも伝わり温度が上がります。だから特別な材料が使われ、水などで常に冷やします。温度は数百度になりますが、溶けることはありません。もし壁が少しでも溶けるようなことがあれば、プラズマの温度は一瞬で下がり、核融合反応は自動的に止まります。このことも核融合発電が安全な理由のひとつです。

夢の核融合反応

☆核融合反応は、軽い原子核同士を高速で(超高温状態で)衝突させて、少し重たい原子核に変換する反応です。原子核が融合するときに大きなエネルギーが発生します。 ☆温度が高くなるほど核融合反応は起こりやすくなりますが、最も起こりやすい 重水素 (記号D)と 三重水素 (記号T)の反応(D-T反応)でも温度を 1億度 にしなければなりません。最初の核融合発電で使われる反応は当然このD-T反応になります。この反応の短所は、反応によって中性子が発生し、中性子のエネルギーを熱に変換して発電しなければならないことです。 ☆さて、夢の核融合反応と言われているのは、 重水素 とヘリウム3の反応(D-3He反応)です。この反応では上記のD-T反応に比べて、中性子の発生量を数10分の1に減らすことができ、発生する水素の原子核(陽子)から直接電気をとり出すことができます。燃料のヘリウム3は、月、木星、土星にたくさんあることが知られていて、将来の宇宙時代のエネルギー源と考えられています。ところが温度は10億度(D-T反応の10倍)近くにしなければならず、プラズマの閉じ込めがかなり難しくなります。(初期のガンダムにこの反応が使われているという話を聞いたことがあります) ☆さらに究極的な夢の核融合反応が、通常の水素とホウ素の反応(p-11B反応)です。発生するのは、安定なヘリウムだけで、中性子が発生しません。ヘリウムの原子核は電気を帯びているので、これから直接電気が取り出せます。しかし、さらに超高温が必要で、磁場で閉じ込める方式では現在の技術の限界を超えています。 ☆しかし夢はいつか夢でなくなる時が来ます。それまで人類が存続できればですが。

核融合反応の発見から77年

☆核融合反応が発見されたのは、1932年、英国のコッククロフトとウォルトンの二人によってです。陽子(水素の原子核)という粒子を加速して金属のリチウムに当てて、ヘリウムを作る原子核反応を初めて人工的に起こしました。この功績により二人はノーベル賞を受賞しています。 ☆それから77年、核融合反応を制御してエネルギーを取り出せる直前まで来ています。直前といってもエネルギーが取り出せるまでまだ30年ぐらいの研究開発期間が必要です。 ☆核融合発電は難しくて、実現しないのではという議論を聞きます。でも、まだ発見されてから100年も経っていない新しい科学技術なのです。実現しないという議論をするのは時期尚早です。 ☆化石燃料の枯渇が深刻になるのは、50から100年後。その時に自然エネルギーの他に核融合発電という選択肢が残されていたほうが絶対に安心です。今後のエネルギー需要とも関係しますが、自然エネルギーがエネルギー需要を100%まかなえるかどうかについては不安があるからです。これが核融合発電の研究を長期的に続ける大きな動機となっています。

核融合とプラズマの関係【2】

☆ 前回、プラズマの説明 をさせていただきましたが、もう少し核融合との関係を説明させていただきます。普通の気体は、「原子核」の周りを「電子」が覆っています。核融合反応を起こすために、原子核どうしを衝突させたいのですが、電子が邪魔をしてしまいます。だから電子が剥ぎ取られ(専門的には『電離している』と言います)、原子核が自由に動き回っている「プラズマ」という状態が大変都合が良いわけです。 ☆上の絵のように飛び回っている原子核が衝突すると、ある確率で核融合反応が起こります。その確率を高くするには、衝突するときの速さを大きくする必要があります。だいたい1秒間に1000キロメートルの速さにしなければ反応が起こりません。そんな高速にするために必要なことが、温度を高くするということで、最終的に 1億度 の温度が必要となります。 ☆ 核融合発電 を行うために『 1億度 のプラズマ』が必要な理由が、これでイメージしていただけたでしょうか。

核融合の核の本当の意味は?

☆今、報道では「核」という言葉は必ず怖いイメージで使われます。「核実験」とか「核弾頭」に関係するものは、総称して「核」と呼ばれています。「核融合」にも同様の事情があります。研究所に見学に来られた方々からは「核が付くから怖いものだと思っていました」という感想を多くいただきます。きちんとご説明すると「イメージが変わりました」と仰っていただけます。 ☆『核融合』の「核」は『原子核』の「核」のことです。すべての物は3つの小さな粒子からできあがっています。それが「陽子」、「中性子」そして「電子」です。例えば水素は1個の陽子と1個の電子でできています。陽子は水素原子の中心にいるので、原子の核、「原子核」と呼ばれます。ヘリウムは2個の陽子と2個の中性子そして2個の電子でできています。ヘリウムの原子核は陽子2個と中性子2個のかたまりです。その周りに電子2個がいます。 ☆「原子核」どおしが高速でぶつかってくっつく(融合する)ことを核融合反応いいます。例えば太陽の中では、水素の原子核4個がくっついてヘリウムの原子核に変わる核融合反応が起こっています。 核融合発電 では、 重水素 の原子核(陽子1個と中性子1個)と 三重水素 の原子核(陽子1個と中性子2個)をくっつけます。できるのは太陽と同じようにヘリウムの原子核です。下の図がそれを模式的に表したものです。黄色い玉が陽子、青い玉が中性子を表しています。 ☆海外では"Nuclear Fusion"という言葉からNuclear(核)を省略して"Fusion"(融合)だけで核融合のことを意味するようになってきました。病院にある「磁気共鳴画像(MRI)」も最初は「核磁気共鳴(NMR)」と言っていました。「核」が嫌がられ、一般名称が変わってしまった例です。核融合もという話はありますが、私は適当に言葉を省略することに抵抗を感じます。【核融合】が一般に理解されるように頑張ります。

私たちは核融合反応によってできた「星のかけら」でできています

☆宇宙ができたとき、この世に存在する元素は水素、ヘリウム、リチウム、ベリリウムといった軽い元素だけでした。それらが集まって星になり、核融合反応を起こし、より重い元素に変わっていきます。水素はヘリウムに、ヘリウムは炭素や酸素に、最終的には鉄まで重くなっていきます。(鉄より重い元素はまた別の反応でできます)星は最後には超新星爆発によって宇宙に飛び散っていきます。その星屑が集まってできたのが、地球であり、人間なのです。つまり、人間は、核融合反応によってできた「星のかけら」なのです。 ☆天文学者のカール・セーガン著「人はなぜエセ科学に騙されるのか(上)」に次のような一節があります。「水素を別にすれば、人体を作っているすべての原子は、血の中の鉄にしろ、骨をつくるカルシウムにしろ、脳の中の炭素にしろ、何千光年もかなたの赤色巨星のなかで、何億年も昔に作られたものなのだ。『われわれは星屑でできている』というのは、私のお気に入りのセリフである。」

太陽(星)は核融合エネルギーで光っています

☆今日は七夕。「制御された」核融合エネルギーの発生は人工的には実現していません。でも核融合エネルギーは、この宇宙では特別なものではありません。太陽のようにキラキラ光る星(惑星や衛星じゃない星)のすべてが核融合エネルギーを使って熱を発生し、光っています。だから太陽光エネルギーや風力エネルギーを使うことも、ものすご〜く間接的に核融合エネルギーを使っていることになります。私たちが研究しているのは、太陽(星)で起こっている核融合反応を地上で人工的に実現しようということです。 NASA: http://antwrp.gsfc.nasa.gov/apod/ap090707.html ☆太陽は、水素が燃えていると言ってもいいのですが、木やガスや石油が燃えるというのは、炭素に酸素がくっついて、二酸化炭素などに変わることを言います。だから空気(酸素)がないと燃えません。ところが太陽の中には、酸素もないし、周りに空気もありません。だから普通に燃えているのと違うことがわかります。 ☆太陽の中では、水素同士がぶつかって、そしてくっついて、ヘリウムに変化しています。だから75%が水素で、残りがヘリウムです。このように水素がヘリウムに変わることを核融合反応と呼んでいます。そのときのエネルギー発生によって、燃えている(輝いている)ように見えているのです。