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海外のベンチャーが核融合発電の研究開発に着手 その動向に注目が集まる

宇宙開発において、国内外のベンチャーが次々と資金を調達し、事業を加速させていることは、皆さんご存じのことと思います。イーロン・マスク氏率いるスペースX社の新型宇宙船が野口宇宙飛行士を国際宇宙ステーションに送ったことは記憶に新しいことです。 一方、あまり知られてはいませんが、核融合発電の開発においても、ベンチャーによる資金調達と研究開発が活発化しています。すでに中規模の実験装置で高温プラズマの生成に成功した事例もあります。今回はそのようなベンチャーの現状を紹介します。 まず紹介するのは、英国のトカマク・エナジー社です。彼らはST40という球状トカマク装置を開発し、すでに1,500万度のプラズマ生成に成功しています。そして民間として初の1億度(核融合発電のプラズマに必要な条件)達成を目標に実験を行っています。(【追記】2022年3月10日に民間で初の1億度達成を発表しました。)米国でも数社のベンチャー企業が生まれています。コモンウェルス・フュージョン・システムズ社は、マサチューセッツ工科大学(MIT)から独立したベンチャーで、MITで開発された技術を利用し、世界に先駆けて核融合発電を実現しようとしています。現在、MITと共同で、世界初のネットエネルギー発生(入力エネルギーより出力エネルギーが大きいこと)を目指してトカマク装置SPARCの建設に着手しています。ジェネラル・フュージョン社とTAEテクノロジーズ社は、トカマク型とは違った方式の装置で核融合発電の研究開発を行っています。 注目すべきは、いずれのベンチャーにも巨額の投資が集まっており、名だたるIT企業も名を連ねていることです。これまでの核融合の研究開発は、主として国主導で行われてきました。日本も然りです。しかし、これからは官民が協力して核融合発電の早期実現を目指す、そんな段階に入ってきたように思います。 Tokamak Energy社のHP: https://www.tokamakenergy.co.uk/ Commonwealth Fusion System社のHP: https://cfs.energy/ General Fusion社のHP: https://generalfusion.com/ TAE Technologies社のHP: https://tae.com/ この文章は私が編集している広報誌の記...

空の太陽と地上の太陽「核融合発電」の違い

☆太陽中心では、4個の水素の原子核が融合して、最終的にヘリウムに変わる核融合反応(原子核が融合する反応)が進行しています。このとき、約0.7%の 質量が消失 して、そのエネルギーが光(電磁波)として放出されています。今も太陽は、1秒間に約42億キログラムずつ軽くなっているそうです [1]。でも太陽は想像以上に巨大なので、あと50億年は核融合反応を続けられます。 太陽中心で起こっている核融合反応 ☆ところがこの反応(特に最初の水素同士の融合反応)は、非常にまれにしか起こりません。個々の水素原子核について見ると、その寿命が10億年、つまり10億年に1回くらいしか反応しないそうです。だから、太陽の中心のエネルギー発生密度は、1立方メートルあたり270ワットしかありません [2]。(ちなみに人間は約1,000ワット)これでは、たとえ小さな太陽を地上に作ったとしてもエネルギー源にはならないことは明白です。 ☆そこで、地上の太陽「 核融合発電 」では、普通の水素ではなく、その同位体である 重水素 と 三重水素 の核融合反応を使います。(重水素の記号Dと三重水素の記号Tを使ってD-T反応とも言います)これが一番起こしやすい、確率の高い反応だからです。幸い地球上には初期の宇宙で作られた重水素が残っていました。海には50兆トンもの重水素があります。三重水素は、自然界にあまり存在しませんが、同じく海水に含まれる2,000億トンの リチウムから生産 することができます。地球上には奇跡的に核融合発電に使用できる燃料が存在していたのです。もし、これらが地球上に存在しなければ、核融合発電の構想は生まれなかったでしょう。 地上の太陽「核融合発電」で用いる核融合反応 ☆D-T反応では、 中性子 とヘリウムが発生しますが、 中性子の運動エネルギーを熱エネルギーに変換 して発電に使います。一方、ヘリウムの運動エネルギーは、プラズマの温度を維持するために使われます。いずれにしても、この反応は 核分裂反応 と異なり、中性子を介在した連鎖反応でないことが分かります。従って、止めることが容易であり、原理的に暴走しません。 参考文献 [1] Newton別冊「アインシュタインの世界一有名な式 E=mc2」 [2] ローレンス・リバモア国立研究のWebペ...

高温超伝導を使って核融合炉を小型化~MITが民間から投資を受け研究開始

3月9日にMIT(マサチューセッツ工科大学)から「MITと新しく設立した会社が核融合発電に向けた新しいアプローチを立ち上げた~目標は15年以内にパイロットプラントを運転すること」というインパクトのある記事が発表されました。 http://news.mit.edu/2018/mit-newly-formed-company-launch-novel-approach-fusion-power-0309 (外部リンク) まず驚いたのが、このプロジェクトがイタリアの民間会社などから支援を受けてスタートすることです。(正確にはMITと会社が共同で新しい会社を作っているみたいです)資金は5,000万ドル(日本円で約50億円)です。日本の核融合研究で、民間企業からこれほどの支援を受けた例はありません。 次が、プラズマを閉じ込める磁場をこれまでの4倍に強くして、装置そのものを小型化しようという計画です。磁場を4倍にすると、理論上、核融合出力が10倍になります。磁場を4倍にするためには、もちろん新しい技術が必要です。そこで登場するのが、1980年代に発見されて、現在やっと市販されるようになった「高温超伝導体」と呼ばれる材料を使うことです。(高温と言っても、実際には氷点下の極低温で使用されます。従来の超伝導体に比べると少し高温で使えるという意味です。)上の写真が実際に購入した高温超伝導体の電線です。マイナス196度に冷やすと150アンペアの電流を流すことができます。(家庭のコンセントは15アンペア)写真を見て分かるようにカセットテープにそっくりの電線で、厚さは0.1ミリ、幅は4ミリしかありません。このような高温超伝導体の電線をコイル状に巻いて、電流を流すことで、強力な電磁コイルができるわけです。しかし、強力な磁場を作ると巨大な電磁力がかかるので、その支持は技術的に簡単なことではありません。 MITでは、今後3年間で3,000万ドルを研究費に使い、世界で最も強力で径の大きな電磁コイルを作るとしています。そしてそのコイルを使って、15年以内に100メガワット(10万キロワット)出力×10秒パルスのパイロットプラント(名前はSPARCトカマク)を完成させる計画です。(なお、これは核融合出力で、まだ電気への変換はしません。)そしてこの技術をもとに核融合発電所の開発に続い...

核融合発電所で使われる実際の燃料と反応

☆ 核融合発電 に利用される反応は、水素の同位体である重水素と三重水素(トリチウムとも呼ばれます)の融合反応です。 重水素 は、自然の水の中にも含まれる安定な物質です。(水はH2Oなので、Hの部分が水素で、一部が重水素)普通の水素と重水素の自然界の存在比率は、99.985%と0.015%です。少ないように思いますが、海水を含めた水は、地球上に莫大にありますから、重水素は無尽蔵の燃料資源といってよいでしょう。 ☆一方で、 三重水素 は自然界にはほとんど存在しません。また半減期が12年の放射性物質です。ほっておくと弱い電子を放出して、ヘリウムに変わっていきます。ですから、三重水素は燃料資源にはならないのです。だったらどうして核融合発電が成り立つのでしょうか。上の絵を見て下さい。(橙玉が陽子、青玉が中性子を表しています)重水素と三重水素の融合反応で出来た中性子がリチウムに当たって、三重水素とヘリウム(絵の一番右)が出来ています。この出来た三重水素を最初の融合反応に使うのです。三重水素はグルグル回っているだけで、外から供給する必要はありません。 ☆当然、上の リチウム は外から持って来なければいけません。リチウムは、鉱物、塩湖から採取できる比較的豊富な資源で、パソコンや車の2次電池としても普通に使われています。(リチウムイオン電池とも呼ばれています)また海水にも含まれているので、リチウムの資源量もほぼ無尽蔵です。(海水からリチウムを採取する方法はまだ開発中ですが)そこで、核融合発電の実際の燃料は重水素とリチウムの2つということになるので、核融合発電の燃料資源が無尽蔵といえるわけです。 ☆上の絵を見て、反応の後に残るもの(灰とも言います)が何か分かりますか。ヘリウムだけですよね。ヘリウムは安定で無害、温暖化ガスでもオゾン層破壊物質でもありません。外に捨てても問題ありませんが、貴重な資源なので、再利用しましょう。 ☆ 三重水素 は放射性物質ですが、上の上の絵のとおり発電所の中で循環しています。その量は1つの発電所の中で5キログラム程度です。(原子力発電所内の放射性物質の量と比べると桁違いに少ないです)金属の容器や配管の中に(何重にも)閉じ込められているので、外には出てきません。回収しきれないものが外に出てくるかもしれませんが、その量は法...

核融合反応でできたヘリウム灰を外に排気する方法

核融合炉 の中では、 核融合反応によって中性子とヘリウムができ 、 中性子がブランケットと呼ばれる壁で熱に変わる という話はこれまでもしてきました。ですが、ヘリウムはどうなるのかという話はしていなかったと思います。ヘリウムもプラズマ状態ですから、磁場の籠で閉じ込められて、外に出て行きません。そうすると、プラズマの中にヘリウムが溜まってしまって、水素の核融合反応を邪魔するようになってしまいます。どうにかして、ヘリウムを外に排気しなければいけません。(だから、専門家はヘリウムのことを灰と呼んでいます) そこで考えられたのが、ダイバータと呼ばれる装置です。ダイバータは「流れを転じるもの」といった意味です。上の絵のように、プラズマの断面は一般的に楕円形をしているのですが、その一部から外に向かってプラズマが外に飛び出るようにします。(絵の下側のように。池の端に水が流れ出す水路を作るイメージです)そうすると、プラズマ粒子の一部がそこに向かって流れ出します。当然水素に混じってヘリウムも流れ出します。そのプラズマ粒子を板にぶつけて、止めてしまうともうプラズマではなくなり普通の気体なので、ポンプを使って外に排気できます。そのような仕組みを持った装置がダイバータです。排気されたガスはヘリウム混じりの水素なので、ヘリウムを分離して水素をもう一度プラズマに戻すと、プラズマにヘリウムが溜まらなくてすみます。 ダイバータの板にはプラズマが当たりますから、核融合炉の中で最も温度が上がります。普通の金属では溶ける可能性があるので、最も溶けにくいタングステンという金属が使われます。(もちろん少しでも溶けたら不純物となってプラズマを一瞬で冷やしてしまうので、メルトダウンといったことは起こりません)現在フランスに建設中の イーター(ITER) という装置では、実際に核融合反応が起きますから、ダイバータが上手く働くかどうかが確かめられるはずです。 なお、ヘリウムは無害で、温室効果もありませんから、外に排気しても環境に影響は与えません。それより貴重な資源ですから、有効利用するのがよいでしょう。

模型で見る核融合発電炉

☆上の写真は、核融合科学研究所の玄関に展示されている 核融合発電炉 (設計中)の模型です。中が真空なので、実際は金属の容器に覆われて中は見えないのですが、模型なので、ミカンの皮を剥ぐように中が見えるようにしています。 ☆全体としてドーナッツ状をした発電炉は、外径が40メートルあります。(少し大きいので、研究を進めてもっと小さくしたいと思っています) 水素のガスが高温になったプラズマ (薄ピンク色の部分)を、強力な磁場を発生する 超伝導マグネット (青色の部分)と 熱エネルギーを発生するブランケット (黄色の部分)が取り囲みます。そしてその外側が真空を保つ金属容器(クライオスタット)です。全体的な形は、加速器とよく似ています。(水素原子、つまり陽子を加速するという意味では、本当に加速器なのですが) ☆この発電炉は、今実験中の 大型ヘリカル装置(LHD) を相似形で4倍に拡大したものになっています。ですから、今のLHDの実験結果や建設の経験を用いて設計しています。 ☆断面を拡大すると下のような写真になります。プラズマの断面は卵のような楕円形です。超伝導マグネット(コイル)は2本がDNAのように2重らせんになっています。この形から ヘリカル型 と呼ばれています。(一方、コイルが捩れていないのは トカマク形 です) ブランケット は、核融合反応で発生する 中性子 を受け止めて、 運動エネルギーを熱エネルギーに変えます 。中性子が外に漏れないように、プラズマを完全に覆っています。(ブランケットは毛布という意味です。) ☆超伝導マグネットの温度はマイナス270度、ブランケットは500度くらいになります。短い距離でこの温度差を維持するために、色々な工夫が必要になります。真空にするのはもちろん、スーパーインシュレーションと呼ばれる断熱材を挟みます。温度によって材料が伸び縮みすることも正確に計算しておかないと、温度の違うものが接触したり、部品が壊れたりします。この温度差が、工学設計では難しいところになっています。

核融合発電のプラズマが爆発しない理由

☆ 核融合発電 では、 1億度 の プラズマ (真空に近い希薄な水素ガス)を使うので、爆発するのではという心配を皆さん持つようです。(核爆発を連想するのかもしれません)でも安心してください。「原理的」に爆発しないのです。 ☆爆発というと、一気にエネルギーを発生して、火の玉のように温度が上がって、爆風を伴って周りのものを吹き飛ばすというイメージですよね。核融合発電のプラズマは、運転条件の(例えば)1億度よりさらに温度を上げることが、その原理からして不可能なのです。だから一気にエネルギーを発生したり、温度が勝手に上がっていくというようなことが起こりません。また 1億度のプラズマが周りの金属を溶かすようなこともありません 。 ☆どうしてかもう少し説明します。 プラズマは希薄すぎるため、壁に当たると温度が下がってしまう ので、目に見えない 磁場のかご(籠) を使って閉じ込めます。(上の左の図)広がろうとするプラズマを磁場の力で押さえ込んでいる感じです。この広がろうとしたり、押さえ込もうとしたりする力のことを「圧力」と呼びます。ここでプラズマの圧力は「温度」×「粒子の数(密度)」に比例し、磁場の圧力は 超伝導電磁石 が作る磁場の強さによって決まっているというのが味噌になります。そしてプラズマの圧力と磁場の圧力が上手く釣り合ってこそ、初めて運転ができるのです。(その圧力は、核融合発電の場合、数気圧ですので、爆発することはありません。)このバランスが崩れると、プラズマの温度は一瞬に下がってしまいます。 ☆ここで温度が突然上がったらどうなるか考えてみます。温度が上がると、プラズマの圧力が上がります。一方、磁場の圧力は変わりません。(磁場の強さは一定ですから)これでは上手く閉じ込められなくてバランスが崩れ、(シャボン玉が割れるような感じで)プラズマの温度が瞬時に下がってしまいます。また、燃料を入れすぎた場合を考えてみます。今度は粒子の数が増えて、やっぱりプラズマの圧力が上がります。磁場の圧力は変わりません。今度も上手く閉じ込められず、プラズマの温度が下がってしまいます。このように一定の磁場の圧力によって、温度や密度が異常に上昇することを抑制しているのです。バケツの水で例えると、いくら沢山の水(プラズマの圧力)を入れようとしても、バケツの大きさ(磁場の圧力)が決まっ...

核融合炉の中でプラズマを温める方法

☆ 核融合発電 の炉の中では、水素の同位体( 重水素 と 三重水素 )が 超高温 の プラズマ状態 になっています。プラズマは粒子の密度が空気の10万分の1という 希薄な(ほとんど真空の)ガスの状態 です。そしてある温度以上になったとき 中心部 が核融合反応を起こし、 エネルギーを発生 します。そのような超高温プラズマを作るためには、最初に室温の水素のガスを温める必要があります。その方法について説明します。 ☆プラズマを温める方法には大きく2種類があります。ひとつは電波を当てて温める方法です(絵の左側)。皆さんの家でも電子レンジを使って料理に電波を当てて温めていますよね。あれと同じ原理です。もうひとつは、加速器で高速に加速した(つまり温度の高い)水素をプラズマに入れる方法です(絵の右側)。こちらはヤカンで沸騰させた水を、冷たい水に注ぎ込むということに似ています。この二つの方法を上手く組み合わせてプラズマを温めていきます。 ☆ 一度プラズマが温まってしまうと、後は自分の作ったエネルギーで温度を維持します。その状態にまで温めることを 「点火」 といいます。また温度を維持するためには、温度が下がらないように、周りを真空で断熱しなければなりません。そのためにプラズマは、強力な 磁力を使って 真空の中で浮かせます。核融合炉は、完全に真空に取り囲まれていて、魔法瓶のように熱が逃げない構造になっています。

核融合発電の研究は世界中で行われています

核融合発電 の研究は、世界各地で幅広く行われています。上の世界地図は、主要な研究所の場所にピンをさしたものです。規模の大小の差はあるものの、世界中で研究が行われていることが分かってもらえると思います。 核融合発電の研究は、情報が論文等で完全に公開されていて、研究者(学生)同士の国際交流も盛んです。それは、エネルギー問題が地球規模での緊急課題であること、核拡散危機と無関係である(つまり平和的である)ことが影響しています。 私たちの研究所(核融合科学研究所)も日本の代表機関として、各国と協力協定を結んだり、17の海外研究機関と学術交流協定を締結しています。 頭に「核」が着くので、閉鎖的な研究をしていると思われがちですが、それは全くの間違いです。

核融合発電炉のプラズマの温度分布

核融合発電炉 のプラズマは、水素の仲間( 重水素 と 三重水素 )を 真空状態に近い希薄なガス にし、 1億度 まで加熱したものです。これを 『プラズマ』 と呼びます。プラズマは(直径が20メートルぐらいの)丸い ドーナッツ状 をしています。プラズマの周りは真空で、その周りを プランケット と呼ばれる 熱を取り出す 装置で覆っています。ブランケットの温度はだいたい500度。そしてその外側がマイナス269度に冷やされた 超伝導電磁石 です。 これだけの説明だと誤解を招いてしまうことが、これまで何度かありました。プラズマが1億度で、その近くのブランケットが500度なんて現実的にありえないという誤解です。だから少し補足しておきたいと思います。 実際にはプラズマには温度分布があります。(上の右側の絵)中心が一番温度が高くて、外側の方は温度が低くなります。温度の分布を見ると山のような形をしています。1億度を超え、核融合反応を起こすのは、プラズマの中心部だけです。そしてプラズマの表面ではブランケットの温度の500度近くまで下がります。(これだと現実的ですよね。) 温度分布が山の形をしているということは、熱が外に逃げているということを意味します。熱が逃げるということは温度が上がりにくいということです。ですから、熱が逃げにくい温度分布を色々工夫して作り出す研究が積極的に行われています。

核融合発電実用化に向けたスケジュール

昨日まで核融合エネルギー連合講演会に出席し、 核融合発電 実用化に向けた貴重な話しを聞いてきました。そこで聞いた実用化に向けたスケジュールについて纏めてみます。 まず国の方針として「今世紀中葉までに実用化の見通し」を得るとなっています。中葉というのは曖昧ですが、2050年頃ということです。ここから研究開発のスケジュールが逆算されていきます。 実用化の前に、初めて発電を実証する「原型炉(デモ炉)」が建設・運転されます。これが2040年までの運転開始を目指します。これが「核融合発電の実現」ということになります。実現と実用化の間には少し隔たりがあります。実用化にはさらに経済性の向上が必要だからです。 今既に進んでいる計画は、国際協力によるフランスに建設中の「ITER(イーター)計画」です。これは「実験炉」と呼ばれ、発電はしませんが50万キロワットのエネルギーを核融合によって発生します。2020年に実験を開始し、エネルギーを発生するのは2027年です。日本国内で実験炉を作る計画はなく、ITERの実験結果を利用して上記の原型炉を設計し、国内に作ります。 「核融合発電の実用化」には、まだ長い道のりが続きますが、きっと成功すると信じています。

ヘリカルとトカマク

☆岐阜県土岐市(私の研究所)で研究が進められているのはヘリカル方式(ステラレータ型のひとつ)と呼ばれ、茨城県那珂市で研究が進められているのはトカマク方式と呼ばれています。(これらの磁場閉じ込め方式と原理の異なるレーザー方式という方法もあります)どうして2つの方式があって、日本では2ヶ所で研究が行なわれているのでしょうか。 ☆ 文部科学省のHP(外部リンク) から引用すると、「国内においては、トカマク、ヘリカル、レーザー、炉工学を重点化すべき課題に絞り込み、これまで長年にわたりプラズマ研究を担ってきた多数の実験装置を、臨界プラズマ試験装置JT−60(トカマク方式/日本原子力研究開発機構)、 大型ヘリカル装置LHD (ヘリカル方式/核融合科学研究所)、激光XII号(レーザー方式/大阪大学レーザーエネルギー学研究センター)に整理・統合することによって重点化・効率化を図り、共同利用・共同研究を積極的に推進しています」が「我が国における核融合研究開発の方針」となっています。つまり、今はトカマクとヘリカル、そしてレーザーに実験装置を絞り込んで研究を進めている段階にあります。 ☆ヘリカルとトカマクは、見た目には 磁場を作る電磁コイルの形 が異なります。(下の図を見てください)しかし、ドーナツ状のプラズマを作る点や 超伝導磁石 を使う点など基本部分は同じで、現時点ではどちらにも研究・開発しなければならない課題があります。そして両方の研究で分からないことを補い合い、同時に研究が進んでいます。発電所を作り始める段階ではどちらの方式にするか決めないといけませんが、現時点では2つの方式を同時に研究・開発することが望ましいと思います。(2つあることが無駄にはなっていないということです。) トカマク方式のプラズマと超伝導コイルの形 (リング状のコイルが等間隔に並んでいます) ヘリカル方式のプラズマと超伝導コイルの形 (連続した捩れたコイルが巻き付けられています)

もし1億度のプラズマが金属容器に当たったら?

核融合発電 では、 1億度 の水素ガス( プラズマ と呼びます)を作ることが必要です。でも、「 1億度 の水素プラズマが 金属容器 に当たるとドロドロに溶けてしまうのではないか」というご質問をよく受けます。ここでは、(厳密さより分かりやすさを優先して)それにお答えしたいと思います。 まず、通常の運転では、プラズマは目に見えない 磁場のカゴ で閉じ込められ(浮遊し)、金属容器の壁には当たっていません。(離れていて、間は真空)だから壁が溶けたりはしません。 でも、磁場のカゴが急になくなって・・・と心配になりますよね。 では、装置として実物のある 大型ヘリカル装置(LHD) を例にしてお答えします。水素プラズマの周囲にある金属容器の重さは65トン(6500万グラム)です。これに対して、1億度の水素プラズマの重量はたったの0.02グラム。これは金属容器の重さの30億分の1という小ささです。さて、コップの水(室温)に、100度のお湯を一滴入れたとして、お湯の温度は変わるでしょうか。また、重たい鉄板にお湯を一滴垂らしてみたらどうでしょうか。コップの水や鉄板の温度はほとんど変わりません。これと同じで、65トンの金属容器に0.02グラムの水素プラズマが当たっても(それがたとえ1億度であっても)溶けたりはしません。あまりにも重さが違いすぎるのです。

超伝導磁石が爆発するわけがない

★日本で出版されたいくつかの書物に、「 核融合発電 のための超伝導磁石はTNT火薬○○トンのエネルギーを蓄積しているので『爆発』するかもしれない」と書かれています。中には、「日本物理学会編」というものもあります。私は長い間、超伝導磁石の研究をしていますが、超伝導磁石自身が爆発したというはなしを聞いたことがありません。(当然、永久磁石でも) ☆そもそも爆発といのは、物体(ガスなど)が一瞬で膨張して、周りに爆風などをもたらすことです。さて、超伝導磁石は電磁石です。導線を巻いて電流を流すコイルです。(磁気エネルギーを持っているので、外側に膨張しようとする電磁力が働いているのは事実です)そこで、少し膨張させてみましょう。導線は切れて、電流は流れなくなります。それ以上電磁力は働かず、膨張はしません。(もし、導線がゴムのように伸びるのであれば、一瞬で膨張させることもできるかもしれませんが)回りくどい言い方かもしれませんが、 超伝導磁石を爆発させることは不可能 です。 ★色々な本が書店に並んでいますが、(当然ですが)全て真実が書かれているわけではありません。あまりにも極端な(人を脅かすような)比喩表現には注意が必要だと思います。そんな本が売れたりするのでしょうが・・

リチウム燃料についての質問

☆最近の講演で、 リチウム燃料 についての質問をいただきました。その回答をまとめておきたいと思います。 Q:リチウムが漏れ出すと危険ではないですか? A:リチウム単体は、ナトリウム同様、自然発火性を持っています。しかし、これを合金や化合物にすることにより、安定な物質になります。発火の危険はありません。(つまりもんじゅのナトリウム漏れ事故のようなことは起こりません) Q:リチウムに 中性子 を当てて 三重水素 を作り、それを 重水素 と 核融合反応 させるということですね。では、リチウムから三重水素を分離する方法を教えてください。 A:例えば、液体リチウム(合金/化合物)を使う場合、それを真空の中でスプレー(雨)のように細かい粒にします。そうするとリチウムに溶けていた三重水素(気体)が外に飛び出してきます。それを回収すれば分離が可能です。リチウムの粒は下に落ちて、また液体に戻ります。

発電所が使う燃料と廃棄物の重さ比較

先日、 核融合発電 についての講演をしましたので、その発表スライドからいくつかピックアップしてみました。 ☆最初は、100万キロワットの発電所1基が、一日に使う 燃料 の重さと大きさの比較です。 石炭火力で使う石炭の量がいかに大きいかわかります。これを輸入しているわけで、輸送時の消費エネルギーも無視できません。 原子力発電の燃料であるウランは、核物質であるため、セキュリティが厳しいのが問題です。 核融合発電 の燃料は軽く、セキュリティの問題もありません。 ☆次は廃棄物の重さ。やっぱり石炭火力からでる二酸化炭素の量はただごとではありません。原子力発電の廃棄物は、みなさんご存じのとおり、捨てる場所さえ決まっていません。 核融合発電からの廃棄物はヘリウムで無害です。量も少なく、温室効果ガスでもありません。これだけでも核融合発電は十分な優位性を持っていると思います。 (補足)核融合発電は、発電所の中で循環して使う 三重水素(トリチウム) の放射能と中性子による 金属材料の放射化 があるので、全くの無害ではありません。しかしその潜在的なリスクは、原子力発電より数桁小さく、100年で減衰します。

核融合発電の起動に核分裂炉は必要ありません

私はWikipedia日本語版を見ないことにしています。英語版と全く内容の質が違うからです。でも稀に気になって核融合についての記述を確認してしまいます。(ググるとWikipediaはいつも上位にいますから)そしていつも意図の分からない記述を見つけてしまいます。 例えば、【核融合炉】についてのこんな記述。これは、この部分は最近追記されたものです。 『しかし、核融合反応を起こすための起電力を得るために、核分裂炉が必要である。ただし、臨界プラズマ条件を満たして核融合反応が進行すれば、自己点火条件に移行させて、その時点で核分裂炉は不要となる。』( http://ja.wikipedia.org/wiki/核融合炉 より引用) これは間違いです。もちろん2ヶ所の「核分裂炉」を「電気」か「電力」に替えれば、ほぼ問題ない文章になります。電気(電力)が得られればどんな発電方法(火力発電でも、自然エネルギーでも、将来なら核融合発電でも)でもよいのですが、ここで敢えて「核分裂炉」と限定した意図が分からないのです。 核兵器(水爆) を連想させようとした悪意はないと信じていますが・・。 ここで、ちゃんと訂正しておきます。(Wikipediaの訂正の仕方は分からないから) 『 核融合反応を起こすための起電力を得るために、核分裂炉(今の原子力発電)は必要ありません。 』 とはいっても、 核融合発電 の起動電力は、数10万キロワットと考えられています。発電所1基分とはいかないまでも、かなり大きな電力が短時間( プラズマが点火 するまで)に必要となります。一般の電力系統から受電すると、電力需要に大きな変動を与えることになります。ここはまだ検討の余地がありそうです。 (8/24追記)Wikipediaから上記の記述が削除されていました。この記事も必要ないことになりますが、まだ誤解もあるかと思うので、残しておきます。

核融合と核分裂の違い

★原子力発電所の事故以来、『核分裂』と言うべきところを『核融合』と言い間違えている発言をよく耳にするので、ここはしっかりと訂正しておきたいと思います。(こんな時期なので黙っておこうと思ったのですが、わたしにも少しは主張する権利があると思い・・) ★原子力発電所で起こる反応は『核分裂(カクブンレツ)』です。ウランのような重たい原子核が分裂して2つに割れることを『核分裂』といいます。(上側の絵)原子力発電所で『核融合』が起こることはありえません。(原子力発電所で起きた水素爆発は、水素と酸素の化学反応で、核融合ではありません)ついでに高速増殖炉(もんじゅ)も『核分裂』です。 ☆『核融合(カクユウゴウ)』は、水素のような軽い原子核が二つくっついて、一つになることです。(下側の絵)今、 世界中で研究 が行なわれている 『核融合』発電 は、水素をくっつけて(融合して)、ヘリウムにする 制御された 核融合反応 を使います。その時、『核分裂』を使うことはありません。 ☆だから、次のことは自明です。 『核融合』発電ではウランを使いません 。だから、 爆発もしない し、 暴走もしない し、連鎖反応もしないし、再臨界もしないし、メルトダウンもしないし、核燃料もないし、核物質もないし、核不拡散問題もないし、高レベル放射性廃棄物もありません。 【水素爆弾との違いは 私の別の記事 を参照ください】 ☆初期(まだ実現まで25~30年くらいかかるけど)の『核融合』発電も、 トリチウム(三重水素) という放射性物質(半減期が12年)を扱うため、100%クリーンとはいえません。しかし、放射能漏れによる潜在的リスク(発電所が保有する放射性物質の強さの合計)は原子力発電の1000分の1以下です。だから 最悪の事故 を考えても、周辺住民が避難するような事態にはなりません。

未来の核融合発電〜DD反応と直接発電

☆近未来の 核融合発電 では、 重水素 と 三重水素 ( リチウム から炉内で生産)を反応(これを DT反応 といいます)させてエネルギーを取り出します。発生する 中性子を熱に変換 し、この熱で水を沸騰させて蒸気タービンを回し、発電します。蒸気タービンを回して発電するところは、火力発電や原子力発電と同じです。ここで、多くの人に次のような指摘を受けます。蒸気タービンの発電効率は40%ぐらい、残りの60%は熱として環境に放出するので、地球環境に影響を与えるのではと。(排出した熱が環境に影響を与えるかどうかの議論は別の機会として)核融合発電は、「直接発電」を使って発電効率をもっと高くできる可能性を秘めています。 ☆ プラズマの温度 をもっと高く(数億度に)できると、三重水素を使わずに、 重水素 だけで燃やすことができます。上の図はその反応を示したものです(触媒DD反応といいます)。もしこの反応が実現したら、完全に海水中の 重水素 (資源は無尽蔵!)だけで発電できます。そしてエネルギーを持った陽子(=水素の原子核)は、正の電気を帯びているので、熱エネルギーに変換せずに、直接電気に変えることができます。これを「直接発電」といい、発電効率は90%を超えるといわれています。一方、同時に発生する中性子のエネルギーはやはり熱に変えるしかありませんが、全体としての発電効率は70%くらいになるでしょう。 ☆初期の核融合発電ではDT反応を使いますが、いつか人類はDD反応を使って発電を成功させるでしょう。それは100年後かもしれません。月、木星、土星に沢山あるヘリウム3をもし採取することができれば、 D-3He反応 を使ってさらに効率のよい発電ができます。(これは少しSFの世界かな。)夢はいつか夢でなくなる。それまで人類が仲良く暮らしていけたらですが。 (参考:「核融合」新OHM文庫)