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大型ヘリカル装置(LHD)の重水素実験プロジェクト完了

私の働く「自然科学研究機構 核融合科学研究所」の主力装置である「大型ヘリカル装置(通称、LHD)」が、2017年から行ってきた「重水素実験」を、2022年12月27日に完了しました(外部リンク: 核融合科学研究所のHP )。重水素実験というのは、水素の同位体である 重水素 ガスを用いたプラズマ生成実験です。(核融合反応を起こす核融合実験ではありません。)重水素をもう少し説明すると、下の絵のように、水素の原子核は陽子1個であるのに対し、重水素には、陽子に中性子がくっついています。水素と重水素は化学的性質はほとんど同じですが、重水素の方が重さが2倍になります。また、重水素は自然界にも0.015%だけ存在しています。 どうして重水素を用いた実験を行ったかというと、現在各国が開発している 核融合発電で使う燃料 は、重水素と 三重水素 (これは3倍重たい水素)の2種類の水素の混合ガスなのですが、水素の種類によって プラズマ の温度の上がり方に違いがあることが分かってきたからです。これまでの理論だと、重い水素の方が強い遠心力が働いて、 磁場のかご から逃げていき、温度が上がりにくいと考えられていました。ところが、 トカマク型 の装置で逆の現象、つまり重水素の方が温度が上がりやすいことが分かってきました。理由は分かりませんが、核融合炉ではより重たい水素を使うので、これは悪いことではありません。そこで、 ヘリカル型 の装置でも、重水素の方が温度が上がりやすいかどうか、またそうであれば、その理由を調べることになったのです。 実験の結果は明らかでした。2017年に重水素実験を開始してすぐに、それまでの水素の実験では最高温度が9,400万度だったのが、一気に1億2,000万度にまで温度が上がりました。これは核融合炉のプラズマに最低限必要な温度です。 トカマク型 だけでなく、 ヘリカル型 でも同じ現象が見られたということで、これが普遍的な現象だと分かりました。それからは、どうして重水素の方が温度が上がりやすいのかの解明に取りかかりました。様々な条件(加熱の方法、粒子の数密度、水素と重水素の割合など)で実験を行い、温度が上がりやすくなる条件を調べ、多くの成果が得られました。 例えば、次のような研究成果があります。 https://www.nifs.ac.jp/news/researches/...

全国の核融合研究施設が素晴らしい写真で紹介されたサイト

写真家、西澤丞さんのブログ「核融合の研究と研究施設の紹介。写真で伝えることの広報効果とは。」で、日本の核融合研究が紹介されました。核融合科学研究所の大型ヘリカル装置LHDをはじめ、全国の研究施設が、素晴らしい写真と共に分かりやすく説明されています。ぜひご覧ください。↓ https://joe-nishizawa.jp/2020/04/23/public-relations-fusion-japanese/ 西澤さんのブログの中に、心に残る文章があった(本当にそうだなと思った)ので、引用させてもらいます。 『未来は、日々の暮らしの中で様々なことを選択していった先にあるものですので、間違ったイメージや思い込みだけで選択を続けてゆけば、間違った未来を手繰り寄せてしまいます。しかし、これまでの日本は、「言わなくてもわかる」とか「自分の仕事を自慢するのは恥」といった考え方が受け継がれて来たせいか、良い仕事をしていても、その内容を伝えることに関して消極的だったように思います。結果として、実際とは異なるイメージが流通していたり、仕事によっては、その存在さえ知られていなかったりしています。それでは、あまりにももったいないし、未来のことを考えると危険でさえあります。』 私も広報担当として、核融合研究について、これまで多くの方と話しをさせてもらいました。こうやってブログも開設しています。ですが、核融合研究に対する認知度はまだまだ低いままです。西澤さんの言うとおり核融合研究は「存在さえ知られていない」し、当初の第一印象は大抵「怖い」です(お話ししているうちに印象は変わっていくのですが)。このような状況では、研究を担う人材が集まらないし、核融合発電の実現(国民の理解を伴う)も遠のきます。ですから広報がとても大切で、頑張ってはいるのですが、思ったほど成果がでていないようです。だからもっと効果的な広報を考えていかなければいけません。印象的な写真で伝えることもその一つだと思います。

日本の核融合研究を紹介するポータルサイトが公開されました

日本の核融合研究全体を紹介するポータルサイトが公開されました。 スマホにも対応しています。 こちらです(外部リンク)↓ http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/fusion/ 文部科学省(文科省)が運営しているサイトですが、全国の主要研究施設、大学が協力していますので、網羅的に国内の研究状況を知ることができます。Photo Galleryも充実しています。また核融合研究に興味ある学生に対するキャリアパスも紹介されています。 目次は次のとおり 核融合とは Photo Gallery(JT-60SA、LHD、GEKKO XII、LIPAc) 核融合プロジェクトを支える人 研究所を訪問する 核融合を学ぶ 核融合エネルギーを実現する 研究費一覧、我が国の核融合施策 核融合に親しむ ぜひ訪れてみてください。

大型ヘリカル装置の超伝導導体を詳しく解説

上の写真は、プラズマ生成実験を行っている核融合科学研究所の 大型ヘリカル装置(LHD) に使われている「超伝導導体」の断面写真です。外形が12.5ミリ×18ミリで、ちょうど親指くらいの太さです。写真は切り出した短いサンプルを写したものですが、実際の導体の長さは、合計で36キロメートルにもなります。この導体を巻いて電磁石(マグネット)を作るのですが、その大きさは直径約10メートルと巨大で、下の絵の青い部分のように二重螺旋の形をしています。導体を巻くことを巻線といいますが、巻線には昼夜問わず作業して1年半掛かりました。なんと導体は合計で900周しています。 さて、超伝導導体のすごいところは、この親指ぐらいの太さで、1万アンペアを流すことができることです。普通の銅線であれば、数100アンペアぐらいしか流せないはずです。(ちなみに家庭の電気製品のケーブルは15アンペア以下)銅線は電流を流しすぎると熱くなりますよね。これは抵抗があって電力を消費しているからです。しかし超伝導導体は抵抗がゼロで、電力を消費しません。装置では、電磁コイルに電流を流すわけですが、流しっぱなしの状態では、電力を消費しない、つまり電気代がいらないということになります。(実際には、少しだけ電力を消費しますが、詳しいことは省略します) そんなことなら、世の中の電線を全て超伝導にすればよいではないかという話になりますが、そうはいかない事情があります。現在発見されている超伝導体はすべて冷やさないとその能力を発揮しないのです。LHDの超伝導体はニオブとチタンの合金ですが、マイナス270℃に冷やしてから電流を流しています。マイナス270度といえば、絶対零度からたった3℃高いだけです。そこまで冷やすためにはクーラーの親玉みたいな冷凍機が必要で、そこで電力を使ってしまいます。核融合発電になると、その電力が発電した電力の1割にも満たないから成立するのです。 最後に、上の写真の断面構造について説明しておきます。周りの銅色の部分は、まさしく銅です。下側の四角い白い部分、これはアルミニウム。そして、その上側の黒い丸い線15本が二列に俵積みになっている部分、これがニオブチタン超伝導線(撚線)です。アルミニウムがどうして付いているかというと、もしも導体の温度が上がって超伝導性が失われたときに、電流を一...

身近なプラズマいろいろ

オーロラ、炎、稲妻、星雲、太陽コロナ、蛍光灯、ネオンサイン、プラズマテレビなど、身近には色々な プラズマ があります。これらにある共通点がありますよね。そう、「光っている」ことです。 前回プラズマ では、原子から電子が剥がれる( 電離 する)と説明しましたが、逆に原子に電子が戻ることもあります。その時に光を発するのです。だから、ガス状のものが光っていると思ったら、それは大抵プラズマです。そういえば「火の玉」もプラズマだという話があります。(実際に火の玉を見たことありませんが) 上の絵に、色々なプラズマを整理してみました。横の軸は、1立方センチメートルの中に何個の電子(または イオン )が電離して存在するかという数(密度)です。10の右肩に数字を付けたものは、「10のべき乗」といって、すごく大きな数字を表すときに使います。ちなみに、空気(0℃、1気圧)の気体分子の密度は、10の19乗くらいです。ですから、数字自体は大きいですが、空気より密度は小さいということになります。縦の軸は、温度を表しています。 これらの内、比較的温度の低い、オーロラ、炎、稲妻は、気体の全てが原子・分子が電離しているわけではなくて、ごく一部だけです。このようなプラズマを「弱電離プラズマ」と言います。このプラズマは、電子だけが温度が高い(イオンは低い)ので、上の絵では、電子の温度を表しています。絵には載せませんでしたが、蛍光灯の電子は1万度にもなります。どうして蛍光灯を触っても火傷しないのででしょうか。それは、ごく一部の電子が高温なだけで、他のほとんどの気体分子やイオンは温度が低いので、平均すると火傷するような熱さにはならないのです。 一方、比較的温度の高い星雲、太陽コロナなどは、完全に電離してしまっているので、「完全電離プラズマ」と呼ばれます。こちらは、イオンの温度も高くなります。お気付きかもしれませんが、完全に電離していたら、イオン=原子核です。将来の核融合発電に必要なプラズマを研究している 大型ヘリカル装置 のプラズマもほぼ完全電離プラズマで、イオンの温度が 1億度 にもなります。 上の絵に、 太陽の中心部 がないのですが、これは別格です。粒子の密度が10の26乗もあり、上の絵には入りきらないのです。比重にすると、金属でも重たい鉛の10倍以上で、プラズ...

核融合科学研究所の重水素実験に対する誤った情報の指摘

  核融合科学研究所(岐阜県土岐市)の 大型ヘリカル装置 (LHD)で、 重水素ガス (無害)を用いた プラズマ 生成実験が開始されました。普通の水素ガスを用いるより重水素ガスを用いた方が、プラズマの温度が上がると言われていて、数年以内には、装置としての目標である 1億2,000万度 のプラズマ生成を達成すると思います。(現在の水素ガスの実験での達成値は9,400万度)この実験は、将来の 核融合発電 を実現するために必要不可欠なものです。  この実験は 基礎段階の学術的なもの で、 核融合反応を起こす(エネルギーを発生する)ことが目的ではありません が、重水素同士が核融合反応( D-D反応 )が起きる確率はゼロではなく、実験に使った重水素のごく僅かが核融合反応を起こします。その時に放射性物質である 三重水素(トリチウム) と放射線である 中性子 が発生します。トリチウムは回収、中性子はコンクリート壁(もちろん天井もコンクリート)で遮蔽という安全対策をとり、もちろん法令を遵守して実験を行います。また 1億度 と言っても、 周りの壁が溶けることはありません 。  しかし、この実験には反対運動も根強く、広く市民に説明し、地元自治体の同意を得、実験を開始するまでに、約10年を費やしました。それでも、実験を開始する時点で、ネット上に誤った情報が多く流れ、市民の皆様に不安を与えてしまいました。もし、実験に不安に感じておられる方で、偶然この記事を見られたとしたら、最近のネット上の情報の誤りを指摘しますので、ぜひ参考にしてください。 民間の放射線計測システムで 高線量(例えば2.6μSVとか)が観測されたとありますが、重水素実験とは全く関係ありません。 なぜなら、研究所敷地内で高線量は観測されていないからです。研究所敷地内の環境放射線モニタリングシステムのデータを見ていただければ一目瞭然です。実験が開始されても値は変化していません。 https://sewebserv.nifs.ac.jp/map.php  (外部リンク)もしくは  https://sewebserv.nifs.ac.jp/past.php  (外部リンク)(なお、雨が降ると値が少し上昇しますので、ご注意ください。ガンマ線では200、中性子線では20という数字が自然の...

大型ヘリカル装置の超伝導コイルが捩れている理由

☆私たちの研究所(岐阜県土岐市)では、世界最大の ヘリカル型 プラズマ実験装置である「 大型ヘリカル装置 」を用いて、高温 プラズマ を閉じ込める研究を行っています。この「ヘリカル」というのは「らせん状の」という意味で、ドーナツ状のプラズマの周りにらせん状の 超伝導コイル が巻き付けられていることから名付けられました。(下の絵をご覧下さい) ☆では、どうしてらせん状のコイルが必要なのでしょうか?それは洗濯機のように粒子をかき混ぜるためなのです。ドラム式洗濯機を思い浮かべてください。ドラムが回っていないと、洗濯物は下に溜まってしまいます。同じように、ドーナツ状の プラズマ の中では、下の絵(ドーナツの断面)の左側のように、プラスの電気を帯びた粒子(原子核)とマイナスの電気を帯びた粒子(電子)が、上下に分離してしまいます。これでは、上手く閉じ込められないことが分かっています。そこで、 粒子が磁場にまとわり付く 性質を利用し、コイルをらせん状にして、上下をかき混ぜてしまおうというのです。かき混ぜると、下の絵の右側のように、原子核と電子が上手く混ざり合います。ドラム式洗濯機のドラムを回すと、洗濯物が全体に広がるのと同じですね。 ☆さて、磁場でプラズマを閉じ込める型にはもう一つ、トカマク型があります。こちらのコイルは下の絵のようにらせん状ではなくリング状です。この形のコイルだけでは、かき混ぜる効果はありません。そこでトカマク型では、プラズマに電流を流します。その電流がらせん状の磁場を作り出し、粒子をかき混ぜる仕組みになっているのです。ですから、コイルの形は単純ですが、プラズマに電流を流す工夫が必要になってきます。

模型で見る核融合発電炉

☆上の写真は、核融合科学研究所の玄関に展示されている 核融合発電炉 (設計中)の模型です。中が真空なので、実際は金属の容器に覆われて中は見えないのですが、模型なので、ミカンの皮を剥ぐように中が見えるようにしています。 ☆全体としてドーナッツ状をした発電炉は、外径が40メートルあります。(少し大きいので、研究を進めてもっと小さくしたいと思っています) 水素のガスが高温になったプラズマ (薄ピンク色の部分)を、強力な磁場を発生する 超伝導マグネット (青色の部分)と 熱エネルギーを発生するブランケット (黄色の部分)が取り囲みます。そしてその外側が真空を保つ金属容器(クライオスタット)です。全体的な形は、加速器とよく似ています。(水素原子、つまり陽子を加速するという意味では、本当に加速器なのですが) ☆この発電炉は、今実験中の 大型ヘリカル装置(LHD) を相似形で4倍に拡大したものになっています。ですから、今のLHDの実験結果や建設の経験を用いて設計しています。 ☆断面を拡大すると下のような写真になります。プラズマの断面は卵のような楕円形です。超伝導マグネット(コイル)は2本がDNAのように2重らせんになっています。この形から ヘリカル型 と呼ばれています。(一方、コイルが捩れていないのは トカマク形 です) ブランケット は、核融合反応で発生する 中性子 を受け止めて、 運動エネルギーを熱エネルギーに変えます 。中性子が外に漏れないように、プラズマを完全に覆っています。(ブランケットは毛布という意味です。) ☆超伝導マグネットの温度はマイナス270度、ブランケットは500度くらいになります。短い距離でこの温度差を維持するために、色々な工夫が必要になります。真空にするのはもちろん、スーパーインシュレーションと呼ばれる断熱材を挟みます。温度によって材料が伸び縮みすることも正確に計算しておかないと、温度の違うものが接触したり、部品が壊れたりします。この温度差が、工学設計では難しいところになっています。

ヘリカルとトカマク

☆岐阜県土岐市(私の研究所)で研究が進められているのはヘリカル方式(ステラレータ型のひとつ)と呼ばれ、茨城県那珂市で研究が進められているのはトカマク方式と呼ばれています。(これらの磁場閉じ込め方式と原理の異なるレーザー方式という方法もあります)どうして2つの方式があって、日本では2ヶ所で研究が行なわれているのでしょうか。 ☆ 文部科学省のHP(外部リンク) から引用すると、「国内においては、トカマク、ヘリカル、レーザー、炉工学を重点化すべき課題に絞り込み、これまで長年にわたりプラズマ研究を担ってきた多数の実験装置を、臨界プラズマ試験装置JT−60(トカマク方式/日本原子力研究開発機構)、 大型ヘリカル装置LHD (ヘリカル方式/核融合科学研究所)、激光XII号(レーザー方式/大阪大学レーザーエネルギー学研究センター)に整理・統合することによって重点化・効率化を図り、共同利用・共同研究を積極的に推進しています」が「我が国における核融合研究開発の方針」となっています。つまり、今はトカマクとヘリカル、そしてレーザーに実験装置を絞り込んで研究を進めている段階にあります。 ☆ヘリカルとトカマクは、見た目には 磁場を作る電磁コイルの形 が異なります。(下の図を見てください)しかし、ドーナツ状のプラズマを作る点や 超伝導磁石 を使う点など基本部分は同じで、現時点ではどちらにも研究・開発しなければならない課題があります。そして両方の研究で分からないことを補い合い、同時に研究が進んでいます。発電所を作り始める段階ではどちらの方式にするか決めないといけませんが、現時点では2つの方式を同時に研究・開発することが望ましいと思います。(2つあることが無駄にはなっていないということです。) トカマク方式のプラズマと超伝導コイルの形 (リング状のコイルが等間隔に並んでいます) ヘリカル方式のプラズマと超伝導コイルの形 (連続した捩れたコイルが巻き付けられています)

もし1億度のプラズマが金属容器に当たったら?

核融合発電 では、 1億度 の水素ガス( プラズマ と呼びます)を作ることが必要です。でも、「 1億度 の水素プラズマが 金属容器 に当たるとドロドロに溶けてしまうのではないか」というご質問をよく受けます。ここでは、(厳密さより分かりやすさを優先して)それにお答えしたいと思います。 まず、通常の運転では、プラズマは目に見えない 磁場のカゴ で閉じ込められ(浮遊し)、金属容器の壁には当たっていません。(離れていて、間は真空)だから壁が溶けたりはしません。 でも、磁場のカゴが急になくなって・・・と心配になりますよね。 では、装置として実物のある 大型ヘリカル装置(LHD) を例にしてお答えします。水素プラズマの周囲にある金属容器の重さは65トン(6500万グラム)です。これに対して、1億度の水素プラズマの重量はたったの0.02グラム。これは金属容器の重さの30億分の1という小ささです。さて、コップの水(室温)に、100度のお湯を一滴入れたとして、お湯の温度は変わるでしょうか。また、重たい鉄板にお湯を一滴垂らしてみたらどうでしょうか。コップの水や鉄板の温度はほとんど変わりません。これと同じで、65トンの金属容器に0.02グラムの水素プラズマが当たっても(それがたとえ1億度であっても)溶けたりはしません。あまりにも重さが違いすぎるのです。

核融合研究のための超伝導の実験

 私たちの研究所(岐阜県土岐市)には、 大型ヘリカル装置(LHD) という世界最大級の 超伝導磁石 を使った核融合実験装置があり、1998年からプラズマを作る実験を行なっています。日本にはもう一つ大きな核融合実験装置が茨城県那珂市にあり、名前を「JT-60」と言います。1985年から実験を開始し、プラズマの温度で5.2億度という世界記録(ギネスブック認定)を達成しています。ところが、磁石が銅のコイルであるため、長時間プラズマを生成することができませんでした。そこで現在、超伝導磁石を使った装置に改造しているところです。その名前は「JT-60SA」。(外部リンク: JT-60ホームページ )この計画は、日本とEUの共同プロジェクトです。  そのJT-60SAに使われる予定の超伝導導体のサンプル(ニオブ・スズ超伝導体を使用)に電流を流す実験を、私たちの超伝導研究設備で行いました。 流した電流は2万6千アンペア。通電した回数はなんと4千回以上。2ヶ月にわたる実験でしたが、導体は期待通りの性能を発揮し、JT-60SAに使えることが確かめられました。  日本に2つの大きな核融合実験装置があることは、以前のVTRやDVD開発競争と比較されるようなことがありますが、全く状況は異なります。お互いに協力し、核融合発電の早期実現を目指しています。 (大学院進学を希望している学生さんへ) まだまだ超伝導の実験は続きます。私たちの研究所の大学院(外部リンク: 総合研究大学院大学核融合科学専攻 )に入学して、一緒に超伝導の研究をしませんか。修士課程からでも博士課程からでも入学できます。

本の紹介「Build the Future」

西澤丞著:Build the Future、太田出版 (2010) 先日発売された写真集「Build the Future」に、全国の核融合研究施設で撮影された写真が掲載されました。なんと表紙は 大型ヘリカル装置 の内部です。写真集は核融合研究施設、加速器研究施設、外郭放水路の三部構成です。私の知る限り核融合研究施設を撮影した写真集はこれが初めてです。その著者の目の付け所にも驚きますが、中を見ると著者独特の視点で写真が撮られています。私にとっては見慣れた部品や光景が、写真になるととてもカッコよくなっているのです。クールな写真は最先端科学と社会を繋ぐ新しい手法だと感じました。

核融合発電に超伝導が使われる理由

☆発電が成立するためには、使うエネルギーより、取り出すエネルギーの方が大きくなければいけません。ところが 核融合発電 では、 『磁場のかご』 を作るために強力な電磁石(電気を流して磁場を作るコイル)を運転する必要があります。これでは「電気を作る」ために、「電気を流す」という矛盾が生じてしまいます。この矛盾を解決するのが『 超伝導電磁石 』です。普通の電磁石では電気を流すためにエネルギー(電力)を使ってしまうのですが、超伝導材料で作った電磁石はエネルギー(電力)をほとんど消費しません。それは電気抵抗がないからです。(詳しくはまたの機会に・・) 【超伝導電磁石を使わないと・・】 【超伝導電磁石を使うと・・】 ☆その代わり、超伝導電磁石は極低温に冷やす必要があります。プラズマ閉じ込め装置 「大型ヘリカル装置」 の超伝導電磁石は液体ヘリウムに浸してマイナス270度に冷やされています。世の中の一番低い温度がマイナス273度(絶対零度)なので、それより3度高いだけの極低温です。 1億度 のガス(プラズマ)の周りにマイナス270度が存在するという究極の技術が使われるのが核融合発電です。その技術は大変難しいと言われてきましたが、「大型ヘリカル装置」の実験成功で、実現可能であることが確認されました。その後完成した中国のEAST、韓国のKSTARという2つのプラズマ閉じ込め装置も、超伝導電磁石を使って実験を行っています。 ☆超伝導電磁石を冷やすためにエネルギーが必要ですが、核融合発電が実現したら、発電量の数パーセントの電力で超伝導電磁石を冷やすことができます。

プラズマを磁場で閉じ込める原理

☆ 核融合発電 では, 超伝導磁石 で作った強力な磁場で 1億度 の水素ガスを閉じ込めます。閉じ込めるというのは,真空の容器の中で壁にぶつからないように空中に浮遊させることです。では,どうして磁石で水素ガスを閉じ込めることができるのでしょうか? ☆「鉄」が磁石にくっつくというのは誰もが知っていることです。もう一つ磁石によって力が働き,動かせるものがあります。「電気の流れ」つまり「電流」です。ちょっと難しそうな話ですが,磁石によって電流に働く力を使ったものは身の回りにたくさんあります。洗濯機,冷蔵庫,パソコンのファンに使われているモーター,テレビのブラウン管,スピーカーなどすぐ身近にあります。(分解すると磁石が入っています。) ☆ 1億度の水素ガスはプラズマ状態 と呼ばれ,電子をはぎ取られた原子核が高速で飛び回っています。原子核はプラスの電気を帯びていて,これが走ると電流となり,磁場の中で力を受けます。そして図のように磁場のなかでクルクル回り出します。そして原子核は磁場にまとわりつき,逃げていかないというわけです。はぎ取られた電子も同じように電気を帯びているので、磁場にまとわりつきます。 ☆核融合の研究では,どのような形の磁場(磁石)を作れば,上手くプラズマを磁場の中に閉じ込めておけるかが重要なテーマとなっています。そこで 大型ヘリカル装置ではねじれた形の磁石 を使って,プラズマを閉じ込める研究をしています。

ステラレータ(星の発生装置)

☆私の研究所にある「大型ヘリカル装置」は、ステラレータ(Stellarator)という名前の装置の仲間です。ステラレータは、天文学者でもある米国プリンストン大学のスピッツァー教授が1950年頃に考案しました。この名前も彼がつけたもので、Stellar-「星の」という形容詞がついた天文学者らしい命名です。なんと最初のステラレータ装置は「8の字」の形をしていたそうです。ステラレータはその後、色々な改良が加えられ、京都大学でヘリオトロン(Heliotron、helioは太陽の意)という装置が考案されました。「大型ヘリカル装置」は日本で進化を遂げた世界最大のヘリオトロン装置です。 ☆ステラレータやヘリオトロンと同じドーナツ状のプラズマを作る装置にトカマク(TOKAMAK)があります。こちらは旧ソビエトで考案され、名前もロシア語でTOK(電流)、KAMEPA(容器)、MAGNITNUE(磁気)、KATUSHKI(コイル)の頭文字からきています。これまでトカマクのほうが大きな装置が作られ、プラズマ最高温度の記録も持っています。国際協力で建設が始まろうとしているイーター(ITER)もトカマクです。トカマクで核融合反応の実証が行われ、次に作られる 核融合発電所 については、いろいろな装置の競争になるだろうと考えています。

超伝導プラズマ閉じ込め実験装置「大型ヘリカル装置」

☆下の写真は私の働く研究所にある プラズマ閉じ込め 実験装置、「大型ヘリカル装置(通称LHD)」です。 超伝導コイル をプラズマ閉じ込めに使った実験装置では世界一大きなものです。令和元年度のプラズマ生成実験は10月から開始し、来年の2月まで行う予定です。 ☆ この装置の目的は、核融合反応を起こすことではなく 、模擬燃料(水素、 重水素 、ヘリウム、アルゴン)を使って(実燃料の一つである 三重水素 《トリチウム》は使いません)、 1億度 近いプラズマの性質を科学的に調べることです。国内外の研究者が集まり、 プラズマ の研究を行っています。これまでに1億度を超えるプラズマを作ることに成功しています。また、2,300万度のプラズマを48分間保持することにも成功しました。(平成29年5月追記) ☆研究所の広報見学室では、団体でも個人でもご家族でも見学を受け付けています(平日のみとなりますが)。見学対応スタッフが核融合のことをわかりやすく説明しますので、ぜひ気軽にお越しください。見学には事前の申し込みをお願いしています。詳しくは ホームページ(外部リンク) を参照ください。

世界のプラズマ閉じ込め実験装置が作るプラズマ、百聞は一見にしかず

☆ プラズマ閉じ込め 実験装置は世界中にあります。それらの中では、 1億度 の超高温の プラズマ が作られています。百聞は一見にしかず。インターネット上に公開されている実験装置が作ったプラズマのMovieを紹介します。 ☆ 大型ヘリカル装置 LHD(外部リンク) 日本を代表する超伝導プラズマ閉じ込め実験装置。ヘリカル型と呼ばれるタイプで1分以上のプラズマを作ることが得意。最長記録は54分。 ☆ トールスープラ Tore Supra(外部リンク) フランスの超伝導プラズマ閉じ込め実験装置。トカマク型と呼ばれるタイプで最長6分30秒のプラズマを作りました。 ☆ ジェット JET(外部リンク) イギリスのプラズマ閉じ込め実験装置。世界最大級のトカマク型装置。燃料に 重水素 と 三重水素(トリチウム) を使い、実際に核融合反応を起こす実験をしました。 (注)Movieを見るためには、追加のソフト(無料)が必要になる場合があります。また容量が大きいので、接続環境に気をつけてください。

大蛇が絡みついたような「磁場のかご」

☆私の働いている研究所の実験装置についてお話します。研究所は「核融合科学研究所」といい、名前の通り核融合に関する科学的な研究をする所です。研究所には「 大型ヘリカル装置 」という世界最大の超伝導 プラズマ閉じ込め 実験装置があって、全国の大学の共同利用設備としてこれまで21年間運転してきました(2019年現在)。 NIFS: http://www.nifs.ac.jp/kids/kabegami.html ☆上の写真は、その大型ヘリカル装置の「磁場のかご」です。2匹の大蛇が絡み合ったような不思議な形をしています。全体を見るとドーナツ状をしていて、直径が10メートルにもなります。大蛇のように見えるところには強力な超伝導磁石が入っていて「磁場のかご」になります。 ☆このような不思議な形になったのには、色々な研究してみると、高い温度の プラズマ (プラズマについては 次回説明 します)を閉じ込めるのに最適だったからです。この方法は日本で考えられ「ヘリカル型」と呼ばれています。実験では、 1億度 近い水素のプラズマをこの 「磁場のかご」の中に閉じ込める 研究を行っています。(核融合反応は起こしません)