私の働く「自然科学研究機構 核融合科学研究所」の主力装置である「大型ヘリカル装置(通称、LHD)」が、2017年から行ってきた「重水素実験」を、2022年12月27日に完了しました(外部リンク:核融合科学研究所のHP)。重水素実験というのは、水素の同位体である重水素ガスを用いたプラズマ生成実験です。(核融合反応を起こす核融合実験ではありません。)重水素をもう少し説明すると、下の絵のように、水素の原子核は陽子1個であるのに対し、重水素には、陽子に中性子がくっついています。水素と重水素は化学的性質はほとんど同じですが、重水素の方が重さが2倍になります。また、重水素は自然界にも0.015%だけ存在しています。
実験の結果は明らかでした。2017年に重水素実験を開始してすぐに、それまでの水素の実験では最高温度が9,400万度だったのが、一気に1億2,000万度にまで温度が上がりました。これは核融合炉のプラズマに最低限必要な温度です。トカマク型だけでなく、ヘリカル型でも同じ現象が見られたということで、これが普遍的な現象だと分かりました。それからは、どうして重水素の方が温度が上がりやすいのかの解明に取りかかりました。様々な条件(加熱の方法、粒子の数密度、水素と重水素の割合など)で実験を行い、温度が上がりやすくなる条件を調べ、多くの成果が得られました。
例えば、次のような研究成果があります。
重水素の方が温度が上がりやすい理由は、私たちの重水素実験で、かなりの部分が解明されました。でも完全ではありません。ですから、今回の重水素実験の完了は少し淋しい気がします。もうすぐトカマク型の実験装置JT-60SA(外部リンク:量子科学技術研究開発機構のHP)が稼働し、重水素実験を開始するでしょうから、今度はその成果を見守って行きたいと思います。
重水素実験は、微量の放射性物質と放射線が発生する実験でした。ですから重水素実験を開始するにあたり、地元自治体の同意を得る必要があり、住民の方々に安全性について丁寧に説明する必要がありました。説明会を開始したのは2006年です。このブログもそのころに始めました。もちろん反対運動もありました。そして、自治体の同意が得られたのは2013年です。それから機器の準備を進め、2017年に重水素実験を開始しました。このように事前説明も含めると、とても多くの時間を費やして実施したプロジェクトだったと思います。私はこのプロジェクトにおいて、超伝導マグネットの整備と地域への広報を担当しましたが、達成感はあります。
昨年の実験データも含めて、まだ数多くのデータ整理と解釈が進められると思います。今後の研究成果も期待してください。なお、大型ヘリカル装置LHDは、今後3年間、水素を用いた(重水素を用いない)実験を行う計画です。これは、プラズマの性質を学術的に調べる実験です。
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