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高温超伝導を使って核融合炉を小型化~MITが民間から投資を受け研究開始

3月9日にMIT(マサチューセッツ工科大学)から「MITと新しく設立した会社が核融合発電に向けた新しいアプローチを立ち上げた~目標は15年以内にパイロットプラントを運転すること」というインパクトのある記事が発表されました。 http://news.mit.edu/2018/mit-newly-formed-company-launch-novel-approach-fusion-power-0309 (外部リンク) まず驚いたのが、このプロジェクトがイタリアの民間会社などから支援を受けてスタートすることです。(正確にはMITと会社が共同で新しい会社を作っているみたいです)資金は5,000万ドル(日本円で約50億円)です。日本の核融合研究で、民間企業からこれほどの支援を受けた例はありません。 次が、プラズマを閉じ込める磁場をこれまでの4倍に強くして、装置そのものを小型化しようという計画です。磁場を4倍にすると、理論上、核融合出力が10倍になります。磁場を4倍にするためには、もちろん新しい技術が必要です。そこで登場するのが、1980年代に発見されて、現在やっと市販されるようになった「高温超伝導体」と呼ばれる材料を使うことです。(高温と言っても、実際には氷点下の極低温で使用されます。従来の超伝導体に比べると少し高温で使えるという意味です。)上の写真が実際に購入した高温超伝導体の電線です。マイナス196度に冷やすと150アンペアの電流を流すことができます。(家庭のコンセントは15アンペア)写真を見て分かるようにカセットテープにそっくりの電線で、厚さは0.1ミリ、幅は4ミリしかありません。このような高温超伝導体の電線をコイル状に巻いて、電流を流すことで、強力な電磁コイルができるわけです。しかし、強力な磁場を作ると巨大な電磁力がかかるので、その支持は技術的に簡単なことではありません。 MITでは、今後3年間で3,000万ドルを研究費に使い、世界で最も強力で径の大きな電磁コイルを作るとしています。そしてそのコイルを使って、15年以内に100メガワット(10万キロワット)出力×10秒パルスのパイロットプラント(名前はSPARCトカマク)を完成させる計画です。(なお、これは核融合出力で、まだ電気への変換はしません。)そしてこの技術をもとに核融合発電所の開発に続い...

大型ヘリカル装置の超伝導導体を詳しく解説

上の写真は、プラズマ生成実験を行っている核融合科学研究所の 大型ヘリカル装置(LHD) に使われている「超伝導導体」の断面写真です。外形が12.5ミリ×18ミリで、ちょうど親指くらいの太さです。写真は切り出した短いサンプルを写したものですが、実際の導体の長さは、合計で36キロメートルにもなります。この導体を巻いて電磁石(マグネット)を作るのですが、その大きさは直径約10メートルと巨大で、下の絵の青い部分のように二重螺旋の形をしています。導体を巻くことを巻線といいますが、巻線には昼夜問わず作業して1年半掛かりました。なんと導体は合計で900周しています。 さて、超伝導導体のすごいところは、この親指ぐらいの太さで、1万アンペアを流すことができることです。普通の銅線であれば、数100アンペアぐらいしか流せないはずです。(ちなみに家庭の電気製品のケーブルは15アンペア以下)銅線は電流を流しすぎると熱くなりますよね。これは抵抗があって電力を消費しているからです。しかし超伝導導体は抵抗がゼロで、電力を消費しません。装置では、電磁コイルに電流を流すわけですが、流しっぱなしの状態では、電力を消費しない、つまり電気代がいらないということになります。(実際には、少しだけ電力を消費しますが、詳しいことは省略します) そんなことなら、世の中の電線を全て超伝導にすればよいではないかという話になりますが、そうはいかない事情があります。現在発見されている超伝導体はすべて冷やさないとその能力を発揮しないのです。LHDの超伝導体はニオブとチタンの合金ですが、マイナス270℃に冷やしてから電流を流しています。マイナス270度といえば、絶対零度からたった3℃高いだけです。そこまで冷やすためにはクーラーの親玉みたいな冷凍機が必要で、そこで電力を使ってしまいます。核融合発電になると、その電力が発電した電力の1割にも満たないから成立するのです。 最後に、上の写真の断面構造について説明しておきます。周りの銅色の部分は、まさしく銅です。下側の四角い白い部分、これはアルミニウム。そして、その上側の黒い丸い線15本が二列に俵積みになっている部分、これがニオブチタン超伝導線(撚線)です。アルミニウムがどうして付いているかというと、もしも導体の温度が上がって超伝導性が失われたときに、電流を一...

模型で見る核融合発電炉

☆上の写真は、核融合科学研究所の玄関に展示されている 核融合発電炉 (設計中)の模型です。中が真空なので、実際は金属の容器に覆われて中は見えないのですが、模型なので、ミカンの皮を剥ぐように中が見えるようにしています。 ☆全体としてドーナッツ状をした発電炉は、外径が40メートルあります。(少し大きいので、研究を進めてもっと小さくしたいと思っています) 水素のガスが高温になったプラズマ (薄ピンク色の部分)を、強力な磁場を発生する 超伝導マグネット (青色の部分)と 熱エネルギーを発生するブランケット (黄色の部分)が取り囲みます。そしてその外側が真空を保つ金属容器(クライオスタット)です。全体的な形は、加速器とよく似ています。(水素原子、つまり陽子を加速するという意味では、本当に加速器なのですが) ☆この発電炉は、今実験中の 大型ヘリカル装置(LHD) を相似形で4倍に拡大したものになっています。ですから、今のLHDの実験結果や建設の経験を用いて設計しています。 ☆断面を拡大すると下のような写真になります。プラズマの断面は卵のような楕円形です。超伝導マグネット(コイル)は2本がDNAのように2重らせんになっています。この形から ヘリカル型 と呼ばれています。(一方、コイルが捩れていないのは トカマク形 です) ブランケット は、核融合反応で発生する 中性子 を受け止めて、 運動エネルギーを熱エネルギーに変えます 。中性子が外に漏れないように、プラズマを完全に覆っています。(ブランケットは毛布という意味です。) ☆超伝導マグネットの温度はマイナス270度、ブランケットは500度くらいになります。短い距離でこの温度差を維持するために、色々な工夫が必要になります。真空にするのはもちろん、スーパーインシュレーションと呼ばれる断熱材を挟みます。温度によって材料が伸び縮みすることも正確に計算しておかないと、温度の違うものが接触したり、部品が壊れたりします。この温度差が、工学設計では難しいところになっています。

核融合発電のプラズマが爆発しない理由

☆ 核融合発電 では、 1億度 の プラズマ (真空に近い希薄な水素ガス)を使うので、爆発するのではという心配を皆さん持つようです。(核爆発を連想するのかもしれません)でも安心してください。「原理的」に爆発しないのです。 ☆爆発というと、一気にエネルギーを発生して、火の玉のように温度が上がって、爆風を伴って周りのものを吹き飛ばすというイメージですよね。核融合発電のプラズマは、運転条件の(例えば)1億度よりさらに温度を上げることが、その原理からして不可能なのです。だから一気にエネルギーを発生したり、温度が勝手に上がっていくというようなことが起こりません。また 1億度のプラズマが周りの金属を溶かすようなこともありません 。 ☆どうしてかもう少し説明します。 プラズマは希薄すぎるため、壁に当たると温度が下がってしまう ので、目に見えない 磁場のかご(籠) を使って閉じ込めます。(上の左の図)広がろうとするプラズマを磁場の力で押さえ込んでいる感じです。この広がろうとしたり、押さえ込もうとしたりする力のことを「圧力」と呼びます。ここでプラズマの圧力は「温度」×「粒子の数(密度)」に比例し、磁場の圧力は 超伝導電磁石 が作る磁場の強さによって決まっているというのが味噌になります。そしてプラズマの圧力と磁場の圧力が上手く釣り合ってこそ、初めて運転ができるのです。(その圧力は、核融合発電の場合、数気圧ですので、爆発することはありません。)このバランスが崩れると、プラズマの温度は一瞬に下がってしまいます。 ☆ここで温度が突然上がったらどうなるか考えてみます。温度が上がると、プラズマの圧力が上がります。一方、磁場の圧力は変わりません。(磁場の強さは一定ですから)これでは上手く閉じ込められなくてバランスが崩れ、(シャボン玉が割れるような感じで)プラズマの温度が瞬時に下がってしまいます。また、燃料を入れすぎた場合を考えてみます。今度は粒子の数が増えて、やっぱりプラズマの圧力が上がります。磁場の圧力は変わりません。今度も上手く閉じ込められず、プラズマの温度が下がってしまいます。このように一定の磁場の圧力によって、温度や密度が異常に上昇することを抑制しているのです。バケツの水で例えると、いくら沢山の水(プラズマの圧力)を入れようとしても、バケツの大きさ(磁場の圧力)が決まっ...

超伝導磁石が爆発するわけがない

★日本で出版されたいくつかの書物に、「 核融合発電 のための超伝導磁石はTNT火薬○○トンのエネルギーを蓄積しているので『爆発』するかもしれない」と書かれています。中には、「日本物理学会編」というものもあります。私は長い間、超伝導磁石の研究をしていますが、超伝導磁石自身が爆発したというはなしを聞いたことがありません。(当然、永久磁石でも) ☆そもそも爆発といのは、物体(ガスなど)が一瞬で膨張して、周りに爆風などをもたらすことです。さて、超伝導磁石は電磁石です。導線を巻いて電流を流すコイルです。(磁気エネルギーを持っているので、外側に膨張しようとする電磁力が働いているのは事実です)そこで、少し膨張させてみましょう。導線は切れて、電流は流れなくなります。それ以上電磁力は働かず、膨張はしません。(もし、導線がゴムのように伸びるのであれば、一瞬で膨張させることもできるかもしれませんが)回りくどい言い方かもしれませんが、 超伝導磁石を爆発させることは不可能 です。 ★色々な本が書店に並んでいますが、(当然ですが)全て真実が書かれているわけではありません。あまりにも極端な(人を脅かすような)比喩表現には注意が必要だと思います。そんな本が売れたりするのでしょうが・・

核融合研究のための超伝導の実験

 私たちの研究所(岐阜県土岐市)には、 大型ヘリカル装置(LHD) という世界最大級の 超伝導磁石 を使った核融合実験装置があり、1998年からプラズマを作る実験を行なっています。日本にはもう一つ大きな核融合実験装置が茨城県那珂市にあり、名前を「JT-60」と言います。1985年から実験を開始し、プラズマの温度で5.2億度という世界記録(ギネスブック認定)を達成しています。ところが、磁石が銅のコイルであるため、長時間プラズマを生成することができませんでした。そこで現在、超伝導磁石を使った装置に改造しているところです。その名前は「JT-60SA」。(外部リンク: JT-60ホームページ )この計画は、日本とEUの共同プロジェクトです。  そのJT-60SAに使われる予定の超伝導導体のサンプル(ニオブ・スズ超伝導体を使用)に電流を流す実験を、私たちの超伝導研究設備で行いました。 流した電流は2万6千アンペア。通電した回数はなんと4千回以上。2ヶ月にわたる実験でしたが、導体は期待通りの性能を発揮し、JT-60SAに使えることが確かめられました。  日本に2つの大きな核融合実験装置があることは、以前のVTRやDVD開発競争と比較されるようなことがありますが、全く状況は異なります。お互いに協力し、核融合発電の早期実現を目指しています。 (大学院進学を希望している学生さんへ) まだまだ超伝導の実験は続きます。私たちの研究所の大学院(外部リンク: 総合研究大学院大学核融合科学専攻 )に入学して、一緒に超伝導の研究をしませんか。修士課程からでも博士課程からでも入学できます。

核融合発電に超伝導が使われる理由

☆発電が成立するためには、使うエネルギーより、取り出すエネルギーの方が大きくなければいけません。ところが 核融合発電 では、 『磁場のかご』 を作るために強力な電磁石(電気を流して磁場を作るコイル)を運転する必要があります。これでは「電気を作る」ために、「電気を流す」という矛盾が生じてしまいます。この矛盾を解決するのが『 超伝導電磁石 』です。普通の電磁石では電気を流すためにエネルギー(電力)を使ってしまうのですが、超伝導材料で作った電磁石はエネルギー(電力)をほとんど消費しません。それは電気抵抗がないからです。(詳しくはまたの機会に・・) 【超伝導電磁石を使わないと・・】 【超伝導電磁石を使うと・・】 ☆その代わり、超伝導電磁石は極低温に冷やす必要があります。プラズマ閉じ込め装置 「大型ヘリカル装置」 の超伝導電磁石は液体ヘリウムに浸してマイナス270度に冷やされています。世の中の一番低い温度がマイナス273度(絶対零度)なので、それより3度高いだけの極低温です。 1億度 のガス(プラズマ)の周りにマイナス270度が存在するという究極の技術が使われるのが核融合発電です。その技術は大変難しいと言われてきましたが、「大型ヘリカル装置」の実験成功で、実現可能であることが確認されました。その後完成した中国のEAST、韓国のKSTARという2つのプラズマ閉じ込め装置も、超伝導電磁石を使って実験を行っています。 ☆超伝導電磁石を冷やすためにエネルギーが必要ですが、核融合発電が実現したら、発電量の数パーセントの電力で超伝導電磁石を冷やすことができます。

超伝導プラズマ閉じ込め実験装置「大型ヘリカル装置」

☆下の写真は私の働く研究所にある プラズマ閉じ込め 実験装置、「大型ヘリカル装置(通称LHD)」です。 超伝導コイル をプラズマ閉じ込めに使った実験装置では世界一大きなものです。令和元年度のプラズマ生成実験は10月から開始し、来年の2月まで行う予定です。 ☆ この装置の目的は、核融合反応を起こすことではなく 、模擬燃料(水素、 重水素 、ヘリウム、アルゴン)を使って(実燃料の一つである 三重水素 《トリチウム》は使いません)、 1億度 近いプラズマの性質を科学的に調べることです。国内外の研究者が集まり、 プラズマ の研究を行っています。これまでに1億度を超えるプラズマを作ることに成功しています。また、2,300万度のプラズマを48分間保持することにも成功しました。(平成29年5月追記) ☆研究所の広報見学室では、団体でも個人でもご家族でも見学を受け付けています(平日のみとなりますが)。見学対応スタッフが核融合のことをわかりやすく説明しますので、ぜひ気軽にお越しください。見学には事前の申し込みをお願いしています。詳しくは ホームページ(外部リンク) を参照ください。

核融合発電のしくみ

☆下の絵は、核融合発電の仕組みを簡単に書いたものです。核融合発電の中心は「核融合炉」です。(火力発電では「ボイラー」、原子力発電では「原子炉」と呼びます)炉の中で 燃焼 しているのは、水素の仲間( 重水素 と 三重水素 )を 真空状態に近い希薄なガス にし、 1億度 まで加熱したものです。これを 『プラズマ』 と呼びます。中では 核融合反応 が起きていて、反応で発生したエネルギーを熱として取り出して水を沸騰させます。そして蒸気でタービンを回し発電します。蒸気はもう一度海水で冷やして水に戻します。ここまでの話では、燃えているものが違うだけで、火力発電、原子力発電とおおまかな仕組みは同じです。(次世代の核融合発電では効率の高い 直接発電 も考えられています) ☆火力発電や原子力発電では燃焼している燃料から直接熱が発生し、熱を取り出すことができます。ところが核融合炉ではまず、 核融合反応でできた高速で飛び出してくる素粒子、つまり中性子 を周りを覆った厚さ1mの ブランケット と呼ばれる部分で受け止めます。ブランケットで受け止められた中性子は速度を落とし、その落ちた速度に相当するエネルギーが熱に変わります。(この時のプランケットの温度は500度ぐらい)この中性子の運動エネルギーが熱エネルギーに変わるところが従来の発電と異なる点です。 ☆材料(主に金属)に中性子が当たると、機能が劣化したり、 放射化(普通の材料が放射能を持つように変化) したりします。中性子が当たっても丈夫な材料、さらに放射化しにくい材料の研究が現在精力的に行われています。そして最初の核融合炉に使うことができる材料の候補もすでに見つかっています。当然のことですが、 生体遮蔽(作業者や周辺の住民に中性子を含む放射線が当たらないようにすること) が絶対に必要ですが、その技術はすでに開発されています。 ☆プラズマが周囲の壁に触れてしまうと、プラズマの温度が下がって、核融合反応が止まってしまいます。そのために 『磁場のかご』 を使ってプラズマを空中に浮遊させます。(このとき壁とプラズマは離れていて、その間は真空になっています)この『磁場のかご』を作り出すのが、ブランケットの外側にある 超伝導 マグネットです。超伝導マグネットはマイナス269度という極低温に冷やされます。 1億度という超高温 と...

大蛇が絡みついたような「磁場のかご」

☆私の働いている研究所の実験装置についてお話します。研究所は「核融合科学研究所」といい、名前の通り核融合に関する科学的な研究をする所です。研究所には「 大型ヘリカル装置 」という世界最大の超伝導 プラズマ閉じ込め 実験装置があって、全国の大学の共同利用設備としてこれまで21年間運転してきました(2019年現在)。 NIFS: http://www.nifs.ac.jp/kids/kabegami.html ☆上の写真は、その大型ヘリカル装置の「磁場のかご」です。2匹の大蛇が絡み合ったような不思議な形をしています。全体を見るとドーナツ状をしていて、直径が10メートルにもなります。大蛇のように見えるところには強力な超伝導磁石が入っていて「磁場のかご」になります。 ☆このような不思議な形になったのには、色々な研究してみると、高い温度の プラズマ (プラズマについては 次回説明 します)を閉じ込めるのに最適だったからです。この方法は日本で考えられ「ヘリカル型」と呼ばれています。実験では、 1億度 近い水素のプラズマをこの 「磁場のかご」の中に閉じ込める 研究を行っています。(核融合反応は起こしません)