スキップしてメイン コンテンツに移動

投稿

3月, 2010の投稿を表示しています

1億度ってどんな温度?

☆ 核融合発電 では1億度の水素の プラズマ を使いますと見学者に説明すると、びっくりされます。1億度という温度が容易にイメージできないからです。そしてそのことを怖がる人もいます。だからプラズマを温度で表現するのは慎重にしないといけないようです。 ☆気体は目に見えませんが、小さな粒子(分子)がある速度で動き回っています。上の絵のように、色々な方向に飛び回っています。私たちの周りの空気(窒素分子と酸素分子がほとんど)だと秒速300メートルほどです。でも空気の粒子が当たって痛いと思う人はいませんよね。(これって不思議です) ☆さて、気体の温度が高くなると、粒子の速度も速くなっていきます。 プラズマ になって、イオンと電子に分離しても、粒子の速度は温度が高くなるにつれて速くなっていきます。(イオンと電子の速度が同じとは限りません。)例えば「蛍光灯」は身近なプラズマの代表ですが、中の粒子(電子)は、1万度の温度になったときと同じ速度(毎秒600キロメートル)で走っています。『蛍光灯が1万度?』またまた話しがややこしくなってきました。蛍光灯を触っても、火傷するほど熱くはないですよね。 ☆私たちが熱いとか冷たいとか感じるのは、温度だけでなく、(温度)×(粒子の数)が関係しているのです。(熱の伝わりやすさも関係しますが・・)蛍光灯の中に1万度の電子がいても、その数がものすごく少なければ、熱くなりません。実際にものすごく少ないのですが。 ☆さて、核融合発電のプラズマは、粒子(原子核)の数(密度)が空気の10万分の1くらいしかありません。(真空と言ってもよい状態なのです)1億度の温度とかけ算すると、熱いことは間違いないですが、想像を超える熱さではありません。ちなみに、 大型ヘリカル装置 でできた最もエネルギーの高い(熱い)プラズマは、200リットルのお風呂のお湯の温度を2度上げるくらいのエネルギーしかもっていません。だから1億度といっても、 周りのものを溶かしてしまうような力は持っていない のです。(安心してください) ☆だったら、どうしてエネルギー源になるの?という質問が来そうです。 核融合発電所 のプラズマで 核融合反応 が起こったときにできる 中性子 、これがある速度を持っていて、プラズマから外に飛び出してきます。その中性子を ブランケット

太陽と「地上の太陽」の違い【3】

☆以前、太陽中心で起こっている核融合と「地上の太陽」と呼ばれている 核融合発電 の違い( 【1】 と 【2】 )を紹介しました。それは次の二つの大きな違いです。 水素ガス(プラズマ)の圧力:   太陽 2500億気圧   発電 数気圧 水素ガス(プラズマ)閉じ込めの原理:   太陽 重力(地球の30万倍の重さ)   発電 超伝導磁石を使った強い磁場 ☆すでに紹介したことがあるのですが、最後に三つ目の違いを紹介します。それは、融合(フュージョン)反応を起こしている水素の種類の違いです。 ☆太陽では、水素の原子核が2個(つまり陽子が2個)融合して 重水素 (陽子1個と中性子1個の原子核)になる反応が最初に起こります。引き続いて重水素が別の融合反応を起こして、ヘリウムに変わっていきます。最初の水素同士の融合反応はとても起こりにくい反応なので、太陽と同じことを地上で実現し、エネルギー源とすることはまず不可能です。 太陽の融合反応 ☆一方、地上の 核融合発電 では、燃料に水素ではなく、 重水素 と 三重水素 (陽子1個と中性子2個の原子核)を使います。これは融合反応を一番起こしやすい水素の仲間(同位体)です。幸いにも地球上には初期の宇宙で作られた重水素が残っていました。海には50兆トンもの重水素があります。( 水の形で )三重水素は、自然界にほとんど存在しませんが、同じく海水に含まれる2000億トンの リチウムから生産 することができます。偶然というか、奇跡というか、自然界にはエネルギー源となりうる融合反応の燃料が存在していたのです。もしこれらの燃料が地球上になければ、核融合発電の実現可能性はゼロだったでしょう。 核融合発電の融合反応

本の紹介「戸塚教授の『科学入門』」

戸塚洋二著:戸塚教授の「科学入門」E=mc2は美しい!、講談社(2008) ☆本書の冒頭にある「最後のインタビュー」。先生が亡くなられる直前に、東大立花ゼミの学生がインタビューした内容が収録されています。( 暫定版はこちら )そこには若い人への強いメッセージがあります。「僕には嫌いな言葉がひとつある。それは『子孫に負を残すな』っていう言葉。僕は『どんどん残せ』って言うんです。放射性廃棄物の処理にしても、環境問題にしても、エネルギー・食料危機にしてもね。(本文から抜粋)」意外なメッセージに聞こえますよね。でも先生は、若い人はどんどん頭が良くなっているはずだし、解決できない問題はないと明言されています。そして、若い人にこれらの負を解決してほしいという強い願いが込められいます。 ☆核融合で発電ができるのが、何年後かわかりませんが、ロードマップが長すぎて自分の仕事に対して無力感を感じることがありました。でも先生の言葉を聞いて、若い人に任せれば大丈夫、絶対に完成すると思えるようになりました。 ☆第2章からは先生のブログ「科学入門」です。難し〜い科学が、ぐーんと身近に感じられるようになります。