つい最近、レーザー核融合実験装置が、投入した以上のエネルギーを発生したとのニュースが流れ、国内のテレビニュースでも報道されました。ここでは、今年の2月に発表された磁場核融合実験装置のエネルギー発生ニュースと合わせて紹介したいと思います。
まず、基本的なところから説明します。核融合発電開発を目標にした実験装置でエネルギーを発生するためには、実燃料である重水素と三重水素(どちらも水素の同位体)を混合して、高温プラズマにする必要があります。その温度は1億度です。その方法に二通りあって、このブログサイトで主に紹介している「磁場(閉じ込め)核融合」と「慣性(閉じ込め)核融合」の2つです。「磁場核融合」では、超伝導磁石で作られた強い磁場の容器(直径は10メートル級)の中に、真空状態に近い燃料ガスを入れ、外部から定常的に加熱することでゆっくりと超高温にします。一方、「慣性核融合」では、直径数ミリの球状の容器に燃料ガスを封じ込め、周囲からレーザー光線を当てて、瞬間的に(1ナノ秒=10億分の1秒程度の時間)、超高温にします。同じ温度にするにしてもプラズマの粒子密度と閉じ込め時間が全く違います。
さて、先日(2022年12月)のレーザーを用いた慣性核融合のニュースから紹介します。成果を発表した装置は、ローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)にある国立点火施設(NIF)です。315万ジュール(3.15MJ)の核融合エネルギーが発生しました。この時、サッカースタジアム規模のレーザー発生装置から小さな燃料ペレットに与えられたエネルギーは205万ジュール(2.05MJ)でした。つまり、出力と入力が釣り合うブレークイーブンを越えたことになります(慣性核融合ではこれを「点火」と呼んでいます)。出力/入力を計算したものをQ値と呼ぶので、Q>1を達成したことになります。
NIFの内部写真(米国NNSAのfrickr(外部リンク)より)次は2022月2月に発表された英国の欧州トーラス共同研究施設(JET)という装置のエネルギー発生のニュースを紹介します。JETは磁場核融合の実験装置で、特にトカマク方式と呼ばれるものです。2021年12月21日の実験で、JETは5秒間に5,900万ジュール(59MJ)のエネルギーを発生しました。この時のQ値は0.33でした。ブレークイーブン(Q=1)は越えていません。
上の2つの成果を比較することに意味はないのですが、解説してみたいと思います。エネルギーの発生量を見ると、JETトカマクの方がレーザーのNIFより圧倒的に大きいです。ですが、ブレークイーブンを越えたのは、NIFの方が先と報道されています。これは少し混乱します。
参考:physicsworldのNewsサイト(14 Dec 2022) https://physicsworld.com/a/national-ignition-facility-demonstrates-net-fusion-energy-gain-in-world-first/ (外部リンク)
NatureのNewsサイト (09 Feb 2022) https://www.nature.com/articles/d41586-022-00391-1(外部リンク)
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