スキップしてメイン コンテンツに移動

核融合発電は爆発しません

★今日は広島に原子爆弾(原爆)が投下された日。原子爆弾はウランやプルトニウムの核分裂反応を利用した非人道的な兵器です。世界は協力して核廃絶を実現しなければなりません。

★核融合エネルギーにも「核」という文字がつきます。残念なことですが核融合エネルギーも非人道的兵器に利用されたことがあります。水素爆弾(水爆)と呼ばれるものです。1950年代に米国によって実験が行われました。第5福竜丸が被曝したのも水素爆弾の実験(1954年)です。

★水素爆弾は原子爆弾(ウランかプルトニウム)の中心に重水素化合物(おそらく固体)を入れて、核融合反応を起こして爆発力を強めたものです。つまり核融合反応を起こすための起爆剤に原子爆弾を使ったもので、原子爆弾を使わなければ水素爆弾はできません。また水素爆弾の放射性降下物のほとんどがウランやプルトニウムからできたものです。

☆「制御された」核融合エネルギー(核融合発電所)は、純粋な重水素三重水素(どちらも水素の同位体)の気体を混ぜて、真空に近い状態でゆっくりと反応させます。ウランやプルトニウムは使いません。核融合発電所の発電量は火力発電とほぼ同じ100万キロワット程度です。これに対して水素爆弾は、核融合発電で生じる「3年分の総エネルギー」を、10万分の1秒という一瞬に放出します。核融合発電と水素爆弾は反応の速さが桁違いに違う、全く別のものなのです。

☆爆発とは、高圧力に圧縮された物質が短時間に外に飛び散ることです。核融合発電の燃料は温度が高くなっても数気圧にしかなりません。これでは爆発しません。

核融合発電は爆発の心配のない発電システムなのです。

コメント

匿名 さんのコメント…
①水素爆発するのではないか。水素プラズマを数気圧にすれば水素爆発するのではないか。

②中性子が飛び出して来るが、電荷が中性な為に、超電導磁石では閉じ込める事ができない。核融合炉が速く傷むのではないか。

③またガンマ線も中性であるが、特に超電導磁石は極低温で超電導状態を保っているが、ここにガンマ線が入り込み、超電導状態を不安定にするのではないか。
☆のかけら さんの投稿…
コメントありがとうございます。核融合炉の運転をする上でとても重要なご質問なので、なるべく丁寧に回答させていただきます。
①水素爆発は水素と酸素の化学反応で起こります。プラズマは、水素以外の酸素などの不純物が入り込むと、瞬時に温度が下がってしまいます。ですから運転中の核融合炉のプラスマには酸素は含まれず、水素爆発の可能性はありません。水素爆発の可能性があるとすれば、プラズマに何らかの理由で空気が入り込んだ場合ですが、プラズマの水素の重さは1グラムほどです。数気圧になるのは、温度が高いから(圧力は粒子密度と温度のかけ算)で、常温では数十万分の1気圧(ほぼ真空)です。1グラムの水素の燃焼熱は140kJ(34kcal)で、これでは水素爆発といえないほど小さなエネルギーです。
②中性子は発電のためのエネルギー変換と三重水素の増殖のために使われるため、プラズマと超電導磁石の間に設置されるブランケットと呼ばれる厚さ1メートルの板状の装置でほぼ全てが吸収されます。
https://marumaru-yamane-fusion.blogspot.com/2010/11/blog-post_1688.html
超電導磁石を通過するのはごく一部です。それでもそのごく一部の中性子が超電導磁石の性能を劣化させるため、核融合炉の寿命を考えて、超電導磁石に当たる総中性子量を許容できる値まで下げるられるよう、ブランケットの中性子遮へい性能を決めます。
③ご指摘のとおり、中性子を遮へいするとガンマ線が発生し、超電導磁石を通過します。その際、ガンマ線が超電導磁石を加熱します。これをガンマ加熱といいます。運転中は定常的な加熱となりますが、液体ヘリウムなどの冷媒で冷却することで、温度上昇を1℃以下にすることができます。超電導体の性能にもよりますが、1℃の温度上昇を許容する磁石の設計は可能です。
匿名 さんのコメント…
匿名で失礼します。

NHKの映像の世紀バタフライエフェクト「アインシュタイン 科学者たちの罪と勇気」を見て、戦争や核爆弾の恐ろしさを再認識するとともに、CO2の削減に必要だからといっても事故が起こってしまうと大変な原子力発電を使い続けることに不安を感じました。

上記映像と関連して、水爆は水素を使った爆弾のイメージであるにも関わらず、放射能が発生することについて疑問に思い検索したところ、こちらのサイトに辿り着き、腑に落ちました。ありがとうございます。

温暖化問題も気になるので、事故が起きた時に危険な原子力発電ではなく、万が一事故が起きても重大な事故にならないように作られた核融合発電が早期に実用化されることを切に願います。
匿名 さんのコメント…
水素爆発も起こらないと回答されていますが、一般的に酸素濃度が5%以上、水素濃度が4%以上混ざった気体に点火すると水素爆発が起こると言われています。また、温度が500℃よりも高くなると自然に発火し、爆発が起きてしまう現象の事を言うともあります。

プラズマ状態での温度は1万度程度あります。プラズマ状態に酸素のような不純物が入ると急激に温度が下がるとありますが、酸素濃度が5%以上になる時には既に500℃以下にまで下がっているという認識でよろしいでしょうか?
1万→500℃にまで瞬時に下がるとはにわかに信じ難いです。放熱に関する原理をもう少しだけ細かく説明していただけると幸いです。
☆のかけら さんの投稿…
水素爆発についてのコメントありがとうございます。

最悪の事態を想定して、プラズマが生成される真空容器に繋がっている配管がギロチン破断し、空気が真空容器内に一気に入ったとします。プラズマの温度が下がったとしても、真空容器の金属壁は500℃以上あります(この温度はすぐには下がりません)から、酸素濃度は5%を超え、自然発火するはずです。ところが、真空容器内の水素の重さは1g程度です。1gの水素の燃焼熱は140kJ(34kcal)です。この程度のエネルギーでは、真空容器はびくともないことが分かっています。

真空容器に繋がっている配管にひび割れがあり、ゆっくりと空気がはいった場合はどうでしょう。プラズマの中に4%の酸素が蓄積すると、核融合反応によるエネルギー発生量が半分になります。このような状態になるまでには、当然気が付くでしょうから、インターロックを付けて、強制的に不純物を入れる(もちろん酸素以外)などして、核融合反応を停止し、水素を外部に排気してしまえば、水素爆発は回避できると思います。なお、プラズマの温度を下げるのに必要な時間は1分もあれば十分です。

「核融合発電は爆発しません」というタイトルを付けておいて、水素爆発(化学反応)は起こるかも知れないという矛盾したことを述べましたが、核反応による爆発は起こさないという意味ですので、ご容赦ください。

最近1ヶ月でよく読まれている投稿

核融合と核分裂の違い

★原子力発電所の事故以来、『核分裂』と言うべきところを『核融合』と言い間違えている発言をよく耳にするので、ここはしっかりと訂正しておきたいと思います。(こんな時期なので黙っておこうと思ったのですが、わたしにも少しは主張する権利があると思い・・) ★原子力発電所で起こる反応は『核分裂(カクブンレツ)』です。ウランのような重たい原子核が分裂して2つに割れることを『核分裂』といいます。(上側の絵)原子力発電所で『核融合』が起こることはありえません。(原子力発電所で起きた水素爆発は、水素と酸素の化学反応で、核融合ではありません)ついでに高速増殖炉(もんじゅ)も『核分裂』です。 ☆『核融合(カクユウゴウ)』は、水素のような軽い原子核が二つくっついて、一つになることです。(下側の絵)今、 世界中で研究 が行なわれている 『核融合』発電 は、水素をくっつけて(融合して)、ヘリウムにする 制御された 核融合反応 を使います。その時、『核分裂』を使うことはありません。 ☆だから、次のことは自明です。 『核融合』発電ではウランを使いません 。だから、 爆発もしない し、 暴走もしない し、連鎖反応もしないし、再臨界もしないし、メルトダウンもしないし、核燃料もないし、核物質もないし、核不拡散問題もないし、高レベル放射性廃棄物もありません。 【水素爆弾との違いは 私の別の記事 を参照ください】 ☆初期(まだ実現まで25~30年くらいかかるけど)の『核融合』発電も、 トリチウム(三重水素) という放射性物質(半減期が12年)を扱うため、100%クリーンとはいえません。しかし、放射能漏れによる潜在的リスク(発電所が保有する放射性物質の強さの合計)は原子力発電の1000分の1以下です。だから 最悪の事故 を考えても、周辺住民が避難するような事態にはなりません。

核融合と核分裂のエネルギー比較

核融合も 核分裂 も 原子核の質量欠損 を使ったエネルギーなので、少量の燃料で大きなエネルギーを得ることができます。工学的に大きな意味はないのですが、核融合と核分裂のエネルギーを比較してみましょう。 1個のウラン(U)原子核が核分裂したときに発生するエネルギーは、約200MeV(メガ電子ボルト)です。(MeVは物理で使うエネルギーの単位です。大きさを比較するだけなので、ここでは詳しい説明は省略します)一方、1個の 重水素 (2H)原子核と1個の 三重水素 (3H)原子核が核融合したときに発生するエネルギーは、約17MeVです。そうです、1回の反応で発生するエネルギーは、核分裂の方が核融合より約10倍大きいことが分かります。 ところが、こんな比較もできるのです。同じ燃料の重さから発生するエネルギーの比較です。ウランは水素よりかなり重たいので、燃料の単位重さ当たりで発生するエネルギーは、逆に核融合の方が核分裂より4倍大きくなります。 もっと分かりやすく表現すると、核分裂の燃料ウラン1グラムは「石炭3トン分」のエネルギーに相当します。一方、核融合の燃料(水素)1グラムは「石炭13トン分」に相当します。さらに、これは「石油約8トン分」です。いずれにしても、少ない燃料で大きなエネルギーが得られることにかわりありません。 ※ここでは反応で生まれるエネルギーを計算しました。発電所で電気エネルギーに変換すると、発電効率がかけ算されるので、少し数字が変わります。

重水素燃料を海水から取り出すためのエネルギー

☆ 核融合発電 の 燃料 は 重水素(水素の同位体) ガスです。海水中に無尽蔵に存在するため、枯渇する心配がありません。ところが、水素の中の重水素の存在比率は0.015%しかありません。「重水素を抽出するために、莫大なエネルギーを使わないのですか?」と質問をされることがあります。その質問にお答えしたいと思います。 ☆上の絵は、水の中の分子の様子を表したものです。ほとんどの水分子では、水素(青い玉)2個と酸素(黄色い玉)1個がくっついている状態が、ほんの一部だけは重水素(赤い玉)と酸素がくっついています。この重水素と酸素が結合した水のことを「重水」と呼びます。また普通の水素でできた水を「軽水」と呼びます。(「重水」と「重水素」は違うものですのでご注意ください。また実際には水素1個と重水素1個と酸素1個が結合した水分子があるのですが、話しを簡単にするためにここでは省略します。) ☆「軽水」と「重水」を分離する技術は、すでに工業化されています。新しい方法としては、電気分解を使う方法があります。電気分解(電気で水素と酸素に分解すること)すると、「重水」より「軽水」の方が早く分解します。だから部分的な電気分解を繰り返すと「重水」だけが濃縮されて残っていくというしくみです。 ☆「重水」ができれば、後はこれを、完全に電気分解すれば「重水素」ガスと酸素ガスに分解できます。重水素はこうのようにして生産されます。 ☆さて問題は、重水素の生産に必要なエネルギーです。生産過程では「重水」生産がほとんどのエネルギーを使います。論文で調べると、1kgの重水を生産するのに必要なエネルギーは57MWh(メガワット時)ということでした。一方、1kgの重水には200gの重水素が含まれてます。この重水素を使って核融合反応を起こすと38,000MWhのエネルギーが発生します。これは重水生産に必要なエネルギー(57MWh)の約700倍になります。つまり、燃料生産に必要なエネルギーは、発電されるエネルギーに対して十分に小さいという結果になります。 (参考:R. Dutton他、Nuclear Engineering and Design 144 (1993) 269)

空の太陽と地上の太陽「核融合発電」の違い

☆太陽中心では、4個の水素の原子核が融合して、最終的にヘリウムに変わる核融合反応(原子核が融合する反応)が進行しています。このとき、約0.7%の 質量が消失 して、そのエネルギーが光(電磁波)として放出されています。今も太陽は、1秒間に約42億キログラムずつ軽くなっているそうです [1]。でも太陽は想像以上に巨大なので、あと50億年は核融合反応を続けられます。 太陽中心で起こっている核融合反応 ☆ところがこの反応(特に最初の水素同士の融合反応)は、非常にまれにしか起こりません。個々の水素原子核について見ると、その寿命が10億年、つまり10億年に1回くらいしか反応しないそうです。だから、太陽の中心のエネルギー発生密度は、1立方メートルあたり270ワットしかありません [2]。(ちなみに人間は約1,000ワット)これでは、たとえ小さな太陽を地上に作ったとしてもエネルギー源にはならないことは明白です。 ☆そこで、地上の太陽「 核融合発電 」では、普通の水素ではなく、その同位体である 重水素 と 三重水素 の核融合反応を使います。(重水素の記号Dと三重水素の記号Tを使ってD-T反応とも言います)これが一番起こしやすい、確率の高い反応だからです。幸い地球上には初期の宇宙で作られた重水素が残っていました。海には50兆トンもの重水素があります。三重水素は、自然界にあまり存在しませんが、同じく海水に含まれる2,000億トンの リチウムから生産 することができます。地球上には奇跡的に核融合発電に使用できる燃料が存在していたのです。もし、これらが地球上に存在しなければ、核融合発電の構想は生まれなかったでしょう。 地上の太陽「核融合発電」で用いる核融合反応 ☆D-T反応では、 中性子 とヘリウムが発生しますが、 中性子の運動エネルギーを熱エネルギーに変換 して発電に使います。一方、ヘリウムの運動エネルギーは、プラズマの温度を維持するために使われます。いずれにしても、この反応は 核分裂反応 と異なり、中性子を介在した連鎖反応でないことが分かります。従って、止めることが容易であり、原理的に暴走しません。 参考文献 [1] Newton別冊「アインシュタインの世界一有名な式 E=mc2」 [2] ローレンス・リバモア国立研究のWebペ

1億度ってどんな温度?

☆ 核融合発電 では1億度の水素の プラズマ を使いますと見学者に説明すると、びっくりされます。1億度という温度が容易にイメージできないからです。そしてそのことを怖がる人もいます。だからプラズマを温度で表現するのは慎重にしないといけないようです。 ☆気体は目に見えませんが、小さな粒子(分子)がある速度で動き回っています。上の絵のように、色々な方向に飛び回っています。私たちの周りの空気(窒素分子と酸素分子がほとんど)だと秒速300メートルほどです。でも空気の粒子が当たって痛いと思う人はいませんよね。(これって不思議です) ☆さて、気体の温度が高くなると、粒子の速度も速くなっていきます。 プラズマ になって、イオンと電子に分離しても、粒子の速度は温度が高くなるにつれて速くなっていきます。(イオンと電子の速度が同じとは限りません。)例えば「蛍光灯」は身近なプラズマの代表ですが、中の粒子(電子)は、1万度の温度になったときと同じ速度(毎秒600キロメートル)で走っています。『蛍光灯が1万度?』またまた話しがややこしくなってきました。蛍光灯を触っても、火傷するほど熱くはないですよね。 ☆私たちが熱いとか冷たいとか感じるのは、温度だけでなく、(温度)×(粒子の数)が関係しているのです。(熱の伝わりやすさも関係しますが・・)蛍光灯の中に1万度の電子がいても、その数がものすごく少なければ、熱くなりません。実際にものすごく少ないのですが。 ☆さて、核融合発電のプラズマは、粒子(原子核)の数(密度)が空気の10万分の1くらいしかありません。(真空と言ってもよい状態なのです)1億度の温度とかけ算すると、熱いことは間違いないですが、想像を超える熱さではありません。ちなみに、 大型ヘリカル装置 でできた最もエネルギーの高い(熱い)プラズマは、200リットルのお風呂のお湯の温度を2度上げるくらいのエネルギーしかもっていません。だから1億度といっても、 周りのものを溶かしてしまうような力は持っていない のです。(安心してください) ☆だったら、どうしてエネルギー源になるの?という質問が来そうです。 核融合発電所 のプラズマで 核融合反応 が起こったときにできる 中性子 、これがある速度を持っていて、プラズマから外に飛び出してきます。その中性子を ブランケット