先日、核融合発電についての講演をしましたので、その発表スライドからいくつかピックアップしてみました。
☆最初は、100万キロワットの発電所1基が、一日に使う燃料の重さと大きさの比較です。
石炭火力で使う石炭の量がいかに大きいかわかります。これを輸入しているわけで、輸送時の消費エネルギーも無視できません。
原子力発電の燃料であるウランは、核物質であるため、セキュリティが厳しいのが問題です。
核融合発電の燃料は軽く、セキュリティの問題もありません。
☆次は廃棄物の重さ。やっぱり石炭火力からでる二酸化炭素の量はただごとではありません。原子力発電の廃棄物は、みなさんご存じのとおり、捨てる場所さえ決まっていません。
核融合発電からの廃棄物はヘリウムで無害です。量も少なく、温室効果ガスでもありません。これだけでも核融合発電は十分な優位性を持っていると思います。
(補足)核融合発電は、発電所の中で循環して使う三重水素(トリチウム)の放射能と中性子による金属材料の放射化があるので、全くの無害ではありません。しかしその潜在的なリスクは、原子力発電より数桁小さく、100年で減衰します。
コメント
聞きかじり知識なのですが発電所として運転した場合ブラケットやダイバータの定期的な交換が必要になるそうなのですがこれらは廃棄物の量(重さ)としてはどの程度なのでしょうか?
添付の絵に加えるとしたらどんな感じでしょうか?
また、放射能のレベルはどの程度なのでしょう。
もう一点融合炉が分裂炉に比べてはるかに安全である事は理解してるつもりなのですが定格運転中の炉が緊急停止したと同時に冷却系の電源を喪失した場合やはり残留熱で炉の構造物の健全性は失われますでしょうか?ブランケット全取り換えとかが冷却パイプも全交換とか必要になりそうな気もしますが、教えていただけると幸いです。
まず部品交換による廃棄物の量については,日本のデモ炉の設計を例にお答えしたいしたいと思います。
↓が参考にした論文です。
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.13182/FST15-101
ご指摘の通り,ブランケットとダイバータは運転中に交換が必要で,論文では交換周期がブランケット2.2年,ダイバータ0.6年と設定されています。
デモ炉の寿命20年に対して,交換された部品の重量は約1万トンになると推定されています。
このブログの絵では一日当たりの廃棄物の量を示していますので,上の量を一日当たりに換算しますと,約1トンとなります。
量としては大きく感じますが,100年間の保管で放射能が減衰し,材料としてリサイクルできるようになります。
その意味では,原子力発電からでる高レベル放射性廃棄物とは,同じ放射性物質でも取扱が異なります。
続きまして2番目の冷却材喪失事故についてお答えします。
核融合炉においても最も厳しい事故が冷却材喪失です。冷却材が喪失したら核融合反応は(能動的および受動的に)停止しますが,ブランケットでは崩壊熱によって温度が徐々に上がっていきます。この温度上昇によって材料が融解しないように設計しなければなりません。
↓が参考にしたヨーロッパのデモ炉についての設計報告書です。
http://www.acamedia.info/sciences/sciliterature/fusion/PPCS_overall_report_final.pdf
報告書では,最悪の条件で冷却を完全に停止して100日間放置したときの温度上昇が計算されています。
その結果,数日でピークの1000℃に達しますが,それ以上には上がっていきません。
最悪の場合を想定しても部品の溶融には至らないと結論付けられています。
もちろん通常の運転温度より高くなったので,健全性を担保するためにブランケットの交換は必要であると考えます。