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核融合発電の仕組み【2021改訂版】

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大型ヘリカル装置(LHD)の重水素実験プロジェクト完了

私の働く「自然科学研究機構 核融合科学研究所」の主力装置である「大型ヘリカル装置(通称、LHD)」が、2017年から行ってきた「重水素実験」を、2022年12月27日に完了しました(外部リンク: 核融合科学研究所のHP )。重水素実験というのは、水素の同位体である 重水素 ガスを用いたプラズマ生成実験です。(核融合反応を起こす核融合実験ではありません。)重水素をもう少し説明すると、下の絵のように、水素の原子核は陽子1個であるのに対し、重水素には、陽子に中性子がくっついています。水素と重水素は化学的性質はほとんど同じですが、重水素の方が重さが2倍になります。また、重水素は自然界にも0.015%だけ存在しています。 どうして重水素を用いた実験を行ったかというと、現在各国が開発している 核融合発電で使う燃料 は、重水素と 三重水素 (これは3倍重たい水素)の2種類の水素の混合ガスなのですが、水素の種類によって プラズマ の温度の上がり方に違いがあることが分かってきたからです。これまでの理論だと、重い水素の方が強い遠心力が働いて、 磁場のかご から逃げていき、温度が上がりにくいと考えられていました。ところが、 トカマク型 の装置で逆の現象、つまり重水素の方が温度が上がりやすいことが分かってきました。理由は分かりませんが、核融合炉ではより重たい水素を使うので、これは悪いことではありません。そこで、 ヘリカル型 の装置でも、重水素の方が温度が上がりやすいかどうか、またそうであれば、その理由を調べることになったのです。 実験の結果は明らかでした。2017年に重水素実験を開始してすぐに、それまでの水素の実験では最高温度が9,400万度だったのが、一気に1億2,000万度にまで温度が上がりました。これは核融合炉のプラズマに最低限必要な温度です。 トカマク型 だけでなく、 ヘリカル型 でも同じ現象が見られたということで、これが普遍的な現象だと分かりました。それからは、どうして重水素の方が温度が上がりやすいのかの解明に取りかかりました。様々な条件(加熱の方法、粒子の数密度、水素と重水素の割合など)で実験を行い、温度が上がりやすくなる条件を調べ、多くの成果が得られました。 例えば、次のような研究成果があります。 https://www.nifs.ac.jp/news/researches/

核融合実験装置からのエネルギー発生〜2022年のニュースから

 つい最近、レーザー核融合実験装置が、投入した以上のエネルギーを発生したとのニュースが流れ、国内のテレビニュースでも報道されました。ここでは、今年の2月に発表された磁場核融合実験装置のエネルギー発生ニュースと合わせて紹介したいと思います。 まず、基本的なところから説明します。核融合発電開発を目標にした実験装置でエネルギーを発生するためには、 実燃料である重水素と三重水素 (どちらも水素の同位体)を混合して、高温プラズマにする必要があります。その温度は 1億度 です。その方法に二通りあって、このブログサイトで主に紹介している「 磁場(閉じ込め)核融合 」と「慣性(閉じ込め)核融合」の2つです。「磁場核融合」では、 超伝導磁石で作られた強い磁場の容器 (直径は10メートル級)の中に、真空状態に近い燃料ガスを入れ、外部から定常的に加熱することでゆっくりと超高温にします。一方、「慣性核融合」では、直径数ミリの球状の容器に燃料ガスを封じ込め、周囲からレーザー光線を当てて、瞬間的に(1ナノ秒=10億分の1秒程度の時間)、超高温にします。同じ温度にするにしてもプラズマの粒子密度と閉じ込め時間が全く違います。 さて、先日(2022年12月)のレーザーを用いた慣性核融合のニュースから紹介します。成果を発表した装置は、ローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)にある国立点火施設(NIF)です。315万ジュール(3.15MJ)の核融合エネルギーが発生しました。この時、サッカースタジアム規模のレーザー発生装置から小さな燃料ペレットに与えられたエネルギーは205万ジュール(2.05MJ)でした。つまり、出力と入力が釣り合うブレークイーブンを越えたことになります(慣性核融合ではこれを「点火」と呼んでいます)。出力/入力を計算したものをQ値と呼ぶので、Q>1を達成したことになります。 NIFの内部写真( 米国NNSAのfrickr (外部リンク)より) 次は2022月2月に発表された英国の欧州トーラス共同研究施設(JET)という装置のエネルギー発生のニュースを紹介します。JETは磁場核融合の実験装置で、特に トカマク方式 と呼ばれるものです。2021年12月21日の実験で、JETは5秒間に5,900万ジュール(59MJ)のエネルギーを発生しました。この時のQ値は0.33でした。ブレークイー

海外のベンチャーが核融合発電の研究開発に着手 その動向に注目が集まる

宇宙開発において、国内外のベンチャーが次々と資金を調達し、事業を加速させていることは、皆さんご存じのことと思います。イーロン・マスク氏率いるスペースX社の新型宇宙船が野口宇宙飛行士を国際宇宙ステーションに送ったことは記憶に新しいことです。 一方、あまり知られてはいませんが、核融合発電の開発においても、ベンチャーによる資金調達と研究開発が活発化しています。すでに中規模の実験装置で高温プラズマの生成に成功した事例もあります。今回はそのようなベンチャーの現状を紹介します。 まず紹介するのは、英国のトカマク・エナジー社です。彼らはST40という球状トカマク装置を開発し、すでに1,500万度のプラズマ生成に成功しています。そして民間として初の1億度(核融合発電のプラズマに必要な条件)達成を目標に実験を行っています。(【追記】2022年3月10日に民間で初の1億度達成を発表しました。)米国でも数社のベンチャー企業が生まれています。コモンウェルス・フュージョン・システムズ社は、マサチューセッツ工科大学(MIT)から独立したベンチャーで、MITで開発された技術を利用し、世界に先駆けて核融合発電を実現しようとしています。現在、MITと共同で、世界初のネットエネルギー発生(入力エネルギーより出力エネルギーが大きいこと)を目指してトカマク装置SPARCの建設に着手しています。ジェネラル・フュージョン社とTAEテクノロジーズ社は、トカマク型とは違った方式の装置で核融合発電の研究開発を行っています。 注目すべきは、いずれのベンチャーにも巨額の投資が集まっており、名だたるIT企業も名を連ねていることです。これまでの核融合の研究開発は、主として国主導で行われてきました。日本も然りです。しかし、これからは官民が協力して核融合発電の早期実現を目指す、そんな段階に入ってきたように思います。 Tokamak Energy社のHP: https://www.tokamakenergy.co.uk/ Commonwealth Fusion System社のHP: https://cfs.energy/ General Fusion社のHP: https://generalfusion.com/ TAE Technologies社のHP: https://tae.com/ この文章は私が編集している広報誌の記

新しい核融合実験装置の建設風景など貴重な写真が見られるサイトの紹介

 写真家 西澤 丞さんが立ち上げられた「Workers in Japan | 人と仕事の情報発信サイト」で核融合実験装置JT-60SAが取り上げられ、製作過程の貴重でインパクトのある写真がアップされています。ぜひ皆さんに見ていただきたいサイトです。 ↓ https://workers-in-japan.com/2021/03/16/naka-fusion-jt60sa-japanese/ まず、西澤さんがオープンされたこのサイト、「現場の人の熱い思いを伝えたい。かっこよく働く姿を見てもらいたい。」と述べられているように、世の中であまり知られていない仕事の現場に入って、働いている人の息づかいが分かるくらいの近さで写真を撮られています。そこで働いている皆さんがとてもかっこよく見えます。 さて、核融合実験装置に話しを戻すと、この新しい装置は茨城県に建設され、これからプラズマを作る実験が始まろうとしているJT-60SAという装置です。実は1985年から2008年まで実験をしていたJT-60という装置を作り替えた後継装置です。西澤さんは前のJT-60の解体作業も取材されていて、当時の貴重な写真も今回公開されています。JT-60SA建設の写真で特に気になったのが、溶接作業の写真です。私も核融合実験装置LHDの建設に携わったので、溶接技術の重要さが分かっています。「真空容器には高精度が求められたので、現場には張り詰めた空気が漂っていた。」と書かれていますがそのとおりです。真空容器ですから少しのピンホールも許されません。そして溶接をするとどうしても金属が歪んでしまい設計図どおりの形状にならないのです。核融合実験装置では最終形状に対してミリ単位の精度が要求されますので、溶接には一段高い技術が必要となるわけです。 こういう写真から核融合発電や核融合研究に興味をもってもらえると嬉しいなと思います。

本の紹介「図解でよくわかる核融合エネルギーのきほん」

  本当に久しぶりに「核融合」に関する解説書が出版されました。「図解でよくわかる核融合エネルギーのきほん」(誠文堂新光社)です。これまでの解説書と違って、特定の著者が書いたものではなく、文部科学省、研究機関、大学が協力してまとめられたもので、内容に偏りがなく正確に書かれています。かと言って難しくはなく、これまでの解説書の中では最も分かりやすいものです。各項目が見開きに纏められ、右ページが図解になっています。(ある意味、どこから読んでも大丈夫!)また科学的な内容だけでなく、経済面や教育面(そして核融合ロケットまで)についても総合的に書かれています。所々にあるコラムも興味深く読むことができます。核融合について知りたくなったら最初に読むのに最適な入門書だと思います。 余談ですが、このブログにある図も引用されましたよ(P71)。

全国の核融合研究施設が素晴らしい写真で紹介されたサイト

写真家、西澤丞さんのブログ「核融合の研究と研究施設の紹介。写真で伝えることの広報効果とは。」で、日本の核融合研究が紹介されました。核融合科学研究所の大型ヘリカル装置LHDをはじめ、全国の研究施設が、素晴らしい写真と共に分かりやすく説明されています。ぜひご覧ください。↓ https://joe-nishizawa.jp/2020/04/23/public-relations-fusion-japanese/ 西澤さんのブログの中に、心に残る文章があった(本当にそうだなと思った)ので、引用させてもらいます。 『未来は、日々の暮らしの中で様々なことを選択していった先にあるものですので、間違ったイメージや思い込みだけで選択を続けてゆけば、間違った未来を手繰り寄せてしまいます。しかし、これまでの日本は、「言わなくてもわかる」とか「自分の仕事を自慢するのは恥」といった考え方が受け継がれて来たせいか、良い仕事をしていても、その内容を伝えることに関して消極的だったように思います。結果として、実際とは異なるイメージが流通していたり、仕事によっては、その存在さえ知られていなかったりしています。それでは、あまりにももったいないし、未来のことを考えると危険でさえあります。』 私も広報担当として、核融合研究について、これまで多くの方と話しをさせてもらいました。こうやってブログも開設しています。ですが、核融合研究に対する認知度はまだまだ低いままです。西澤さんの言うとおり核融合研究は「存在さえ知られていない」し、当初の第一印象は大抵「怖い」です(お話ししているうちに印象は変わっていくのですが)。このような状況では、研究を担う人材が集まらないし、核融合発電の実現(国民の理解を伴う)も遠のきます。ですから広報がとても大切で、頑張ってはいるのですが、思ったほど成果がでていないようです。だからもっと効果的な広報を考えていかなければいけません。印象的な写真で伝えることもその一つだと思います。

日本の核融合研究を紹介するポータルサイトが公開されました

日本の核融合研究全体を紹介するポータルサイトが公開されました。 スマホにも対応しています。 こちらです(外部リンク)↓ http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/fusion/ 文部科学省(文科省)が運営しているサイトですが、全国の主要研究施設、大学が協力していますので、網羅的に国内の研究状況を知ることができます。Photo Galleryも充実しています。また核融合研究に興味ある学生に対するキャリアパスも紹介されています。 目次は次のとおり 核融合とは Photo Gallery(JT-60SA、LHD、GEKKO XII、LIPAc) 核融合プロジェクトを支える人 研究所を訪問する 核融合を学ぶ 核融合エネルギーを実現する 研究費一覧、我が国の核融合施策 核融合に親しむ ぜひ訪れてみてください。

常温核融合についての最新の研究結果

先日、科学雑誌Natureに「常温核融合」についての最新の研究結果が発表されました。もう忘れかけていた話題であり、かつ著名な雑誌への投稿ということで興味津々でした。そして、この研究が2015年からGoogleが出資して始められたことがまた驚きでした。 さてその研究成果ですが、要旨部分を訳すと次のとおりです。 「1989年の常温核融合を見つけたという主張は、将来のクリーンエネルギーになるかもしれないとして広く歓迎された。しかしその後、その現象の再現に失敗すると、学界はこの主張に対する疑念を強めた。そして事実上、この研究を続けることが許されなくなった。そのような判断が時期尚早だったかももしれないと思い立ち、常温核融合が科学的厳格さを持つ高い水準に達するまで再評価する複数の研究機関によるプログラムに着手した。ここでは私たちの成果について述べるが、そのような現象のいかなる証拠も今のところ得ていないということである。とはいえ、我々の研究の副産物は、高水素化金属や低エネルギー核反応についての新しい洞察を得たことである。そして、この未開のパラメータ空間の中には、まだ完了していない非常に興味深い科学が残っていることを我々は主張する。」 上手く日本語に訳せていませんが、ニュアンスは間違ってないと思います。つまり、「そのような現象(常温核融合のこと)のいかなる証拠も今のところ得ていない」ということなので、常温核融合は結局再現できなかったという結論でした。ですが、研究の過程で様々な未知の現象が見つかっているようです。 参考:Curtis P. Berlinguette, et al., Revisiting the cold case of cold fusion, Nature volume 570, pages 45–51 (2019)

空の太陽と地上の太陽「核融合発電」の違い

☆太陽中心では、4個の水素の原子核が融合して、最終的にヘリウムに変わる核融合反応(原子核が融合する反応)が進行しています。このとき、約0.7%の 質量が消失 して、そのエネルギーが光(電磁波)として放出されています。今も太陽は、1秒間に約42億キログラムずつ軽くなっているそうです [1]。でも太陽は想像以上に巨大なので、あと50億年は核融合反応を続けられます。 太陽中心で起こっている核融合反応 ☆ところがこの反応(特に最初の水素同士の融合反応)は、非常にまれにしか起こりません。個々の水素原子核について見ると、その寿命が10億年、つまり10億年に1回くらいしか反応しないそうです。だから、太陽の中心のエネルギー発生密度は、1立方メートルあたり270ワットしかありません [2]。(ちなみに人間は約1,000ワット)これでは、たとえ小さな太陽を地上に作ったとしてもエネルギー源にはならないことは明白です。 ☆そこで、地上の太陽「 核融合発電 」では、普通の水素ではなく、その同位体である 重水素 と 三重水素 の核融合反応を使います。(重水素の記号Dと三重水素の記号Tを使ってD-T反応とも言います)これが一番起こしやすい、確率の高い反応だからです。幸い地球上には初期の宇宙で作られた重水素が残っていました。海には50兆トンもの重水素があります。三重水素は、自然界にあまり存在しませんが、同じく海水に含まれる2,000億トンの リチウムから生産 することができます。地球上には奇跡的に核融合発電に使用できる燃料が存在していたのです。もし、これらが地球上に存在しなければ、核融合発電の構想は生まれなかったでしょう。 地上の太陽「核融合発電」で用いる核融合反応 ☆D-T反応では、 中性子 とヘリウムが発生しますが、 中性子の運動エネルギーを熱エネルギーに変換 して発電に使います。一方、ヘリウムの運動エネルギーは、プラズマの温度を維持するために使われます。いずれにしても、この反応は 核分裂反応 と異なり、中性子を介在した連鎖反応でないことが分かります。従って、止めることが容易であり、原理的に暴走しません。 参考文献 [1] Newton別冊「アインシュタインの世界一有名な式 E=mc2」 [2] ローレンス・リバモア国立研究のWebペ