☆近未来の核融合発電では、重水素と三重水素(リチウムから炉内で生産)を反応(これをDT反応といいます)させてエネルギーを取り出します。発生する中性子を熱に変換し、この熱で水を沸騰させて蒸気タービンを回し、発電します。蒸気タービンを回して発電するところは、火力発電や原子力発電と同じです。ここで、多くの人に次のような指摘を受けます。蒸気タービンの発電効率は40%ぐらい、残りの60%は熱として環境に放出するので、地球環境に影響を与えるのではと。(排出した熱が環境に影響を与えるかどうかの議論は別の機会として)核融合発電は、「直接発電」を使って発電効率をもっと高くできる可能性を秘めています。
☆プラズマの温度をもっと高く(数億度に)できると、三重水素を使わずに、重水素だけで燃やすことができます。上の図はその反応を示したものです(触媒DD反応といいます)。もしこの反応が実現したら、完全に海水中の重水素(資源は無尽蔵!)だけで発電できます。そしてエネルギーを持った陽子(=水素の原子核)は、正の電気を帯びているので、熱エネルギーに変換せずに、直接電気に変えることができます。これを「直接発電」といい、発電効率は90%を超えるといわれています。一方、同時に発生する中性子のエネルギーはやはり熱に変えるしかありませんが、全体としての発電効率は70%くらいになるでしょう。
☆初期の核融合発電ではDT反応を使いますが、いつか人類はDD反応を使って発電を成功させるでしょう。それは100年後かもしれません。月、木星、土星に沢山あるヘリウム3をもし採取することができれば、D-3He反応を使ってさらに効率のよい発電ができます。(これは少しSFの世界かな。)夢はいつか夢でなくなる。それまで人類が仲良く暮らしていけたらですが。
(参考:「核融合」新OHM文庫)
コメント
現状の原発と初期に実現するDT反応発電のリスクの違いを書いて頂けると有り難いです。
放射線物質の量/エネルギー量など分かりやすい値があればお願い致します。
Dで表される重水素は放射性物質ではありません。無害です。Tで表される三重水素(トリチウム)は、放射性物質です。初期の核融合発電ではDT反応を利用するので、放射性物質であるトリチウムを燃料として使うことは事実です。しかし、次世代の触媒DD反応を使った核融合発電では、トリチウムを燃料として使用しないので放射性物質の量は、格段に少なくなります。(反応の途中でトリチウムが発生しますので、全くゼロではありませんが)
それでは、初期のDT反応による核融合発電と現状の原発のリスクについて慎重に述べます。放射性物質は発電所内に閉じ込め、環境に影響を与えないのが原則ですが、ここでは外に漏れ出すような「最悪の事故」を考えます。放射性物質を体に取り込んだときの毒性を、核融合発電の燃料であるトリチウムと今回の原発の事故で放出されたヨウ素やセシウムと比べると、トリチウムの毒性はヨウ素やセシウムの1000分の1です。次に、同じ出力の発電所1基の中に保有する放射性物質の量(放射線量、ベクレル数)は、原発に比べて核融合発電のほうが少なくなります。(原子炉に詳しくないのでアバウトですが、1/10〜1/100だと思います。)
したがって、「潜在的なリスク」を放射性物質の毒性と保有量から考えると、核融合発電は原発の1000分の1以下になります。
さらに、暴走しない、爆発しない、炉心溶融しない、高レベル放射性廃棄物がでないなどの特性が核融合発電にはあります。
ところで、トリチウムはβ崩壊してヘリウム3になりますので、これとDを反応させた方が、高エネルギーの中性子を生じない分、有利で得あるように思います。
この変換には時間がかかりますが、トリチウムを含む重水にして貯蔵しておけば、いずれはヘリウム3になるわけで、ワインを熟成させるようなやり方が使えそうな気がいたします。
DD反応でできるのは、コメントのとおり、トリチウム(T)とヘリウム3(3He)です。引き続いてDT(重水素-トリチウム)反応とD-3He(重水素-ヘリウム3)反応が起こります。DT反応は、DD反応より起こりやすい反応なので、DD反応でできたトリチウムはすぐに重水素と反応してしまうでしょう。
ですから、いただいたアイデアを実現するためには、発生したトリチウムを反応しないように分離しないといけませんね。可能性はあると思います。
しかしながら、DT反応で生じる高エネルギーの中性子が、炉を傷めたり、放射性物質を生成するという問題は、かなり解決が難しいのではないかと考えております。
DD反応で生成する中性子はエネルギーが低く、比較的取り扱いが容易と思われるのですが、同時にDT反応が生じると同じ困難に直面します。
DD反応炉ではDT反応を起こらないようにできれば、生成したトリチウムとヘリウム3を分離し、双方をヘリウム3にしてD-He3反応を起こしてやれば、高エネルギー中性子の問題を回避することができるでしょう。
これにはDD反応のみを選択的に起こすことができるかどうかが課題ということになります。質量分析器のようなメカニズムを利用してDとTを分離することができればよいのですが、、、