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核融合と核分裂の違い



★原子力発電所の事故以来、『核分裂』と言うべきところを『核融合』と言い間違えている発言をよく耳にするので、ここはしっかりと訂正しておきたいと思います。(こんな時期なので黙っておこうと思ったのですが、わたしにも少しは主張する権利があると思い・・)

★原子力発電所で起こる反応は『核分裂(カクブンレツ)』です。ウランのような重たい原子核が分裂して2つに割れることを『核分裂』といいます。(上側の絵)原子力発電所で『核融合』が起こることはありえません。(原子力発電所で起きた水素爆発は、水素と酸素の化学反応で、核融合ではありません)ついでに高速増殖炉(もんじゅ)も『核分裂』です。

☆『核融合(カクユウゴウ)』は、水素のような軽い原子核が二つくっついて、一つになることです。(下側の絵)今、世界中で研究が行なわれている『核融合』発電は、水素をくっつけて(融合して)、ヘリウムにする制御された核融合反応を使います。その時、『核分裂』を使うことはありません。

☆だから、次のことは自明です。『核融合』発電ではウランを使いません。だから、爆発もしないし、暴走もしないし、連鎖反応もしないし、再臨界もしないし、メルトダウンもしないし、核燃料もないし、核物質もないし、核不拡散問題もないし、高レベル放射性廃棄物もありません。
【水素爆弾との違いは私の別の記事を参照ください】

☆初期(まだ実現まで25~30年くらいかかるけど)の『核融合』発電も、トリチウム(三重水素)という放射性物質(半減期が12年)を扱うため、100%クリーンとはいえません。しかし、放射能漏れによる潜在的リスク(発電所が保有する放射性物質の強さの合計)は原子力発電の1000分の1以下です。だから最悪の事故を考えても、周辺住民が避難するような事態にはなりません。

コメント

はなめん さんのコメント…
手塚治虫さんが「核分裂エネルギーは反対。だけど核融合エネルギーは賛成。でも無理でしょ。早くてもあと数十年はかかるんじゃない?」って、おっしゃってました。
☆のかけら さんの投稿…
コメントありがとうございます。手塚治虫さんが、そのような明確な(核分裂と核融合を区別して)発言をされているとは知りませんでした。手塚さんのいう「あと数十年はかかるんじゃない?」というのは、どうしようもなく本当のことで、何とかならないのかと多くの人に叱られています。早くて2040年手前に最初の発電装置(実証炉)ができ、2050年頃に商業炉ができる計画です。(最近の言葉でいう工程表です)核融合発電の研究が、今の脱原発の流れに巻き込まれ、一緒に止まってしまうことを一番心配しています。それであえて核融合と核分裂の違いを説明させてもらいました。
☆のかけら さんの投稿…
はなめんさんのコメントに近いインタビュー記事を見つけました。亡くなられる前の年のインタビューです。
http://www.laputa-jp.com/school/teduka.html
にありました。以下に一部を引用させていただきますが、手塚さんの期待を裏切らないように、真剣に頑張らないといけないなと思いました。
【以下引用】
インタビュア:では改めて、原子力発電について、いかがですか?
手塚:反対です。はっきりそう書いてください。
 ただ、ぼくは反核であらゆる核エネルギーに反対なんだけど、核融合エネルギーには賛成なの。
 核融合は当分まだできないだろうから(笑)。それができた時点でぼくはアトムを核融合エネルギーの産物だとしたいの。
匿名 さんのコメント…
原子力=核=危険
こういう人々の意識に、メディアはなんと無責任は報道を続けるのでしょうか?
国は、理科の時間を奪い、近代史の(社会)時間を削減して、どうでもよいことを民に教える。

どんどんおばかチャンになっているようです。

もっともっと庶民によく理解できるよう、沢山情報を書いてください。
loveonge さんの投稿…
はじめまして。
今回東京新聞と毎日新聞の記事から、
お恥ずかしながら、この研究と核融合の事を知りました。

世界の希望となるエネルギー開発の最前線にいらっしゃる
研究所の皆さまに、心より感謝申し上げます。

当ブログでもこのページを引用させて頂き、
他の方にもお伝えさせて頂きたいと思います。
事後報告になりまして申し訳ありませんが、
どうぞ宜しくお願いいたします。
☆のかけら さんの投稿…
核融合エネルギーの研究にご理解をいただき、ありがとうございます。またこのページをブログで紹介いただけるとのこと、大変嬉しく思います。新聞記事のとおり研究に対する反対運動も一部にありますが、正確な情報を発信し、核融合エネルギーが国民的な議論になるように努めてまいります。
匿名 さんのコメント…
はじめまして。
さきほど「the dark knight rises」という映画をDVDで見て、ふと疑問に思い、調べているうちにこのページにたどり着きました。
作中で核融合炉をテロリストが奪って核爆弾を作っていたのですが、核融合炉は核爆発しないという認識だったのですが、兵器的な使い方は出来るのでしょうか?

あと下記のページで
核融合の爆発>核分裂による爆発
のような書き方がなされているのですが、これもどこまで合っているんでしょうか?サイトがサイトなので凄まじく胡散臭いのですが。
http://dic.pixiv.net/a/%E6%A0%B8%E7%88%86%E7%99%BA
☆のかけら さんの投稿…
はじめまして。お答えします。
核融合炉(少なくとも私の研究している磁場核融合)は、兵器的な使い方はできません。現在、7極(日本、EU、米、ロシア、韓国、中国、インド)が完全公開の協力のもと核融合実験炉(ITER)をフランスに建設しています。兵器的な使い方ができるのであれば、このような協力は成り立たないはずです。

次に、兵器としての核融合研究があった(今もある?)ことは事実ですし、太平洋で行われた水素爆弾(水爆)の実験のように、多くの被爆者を生んだことも事実です。水爆の威力は原爆の10倍、100倍とあったようです。許しがたい非人道的な研究や実験です。このような研究は非公開であり、実際になにが行われたのか私にはわかりません。紹介いただいたサイトの信憑性もコメントしづらいです。
こちらの私のブログ記事も参照ください。
http://marumaru-yamane-fusion.blogspot.jp/2009/09/blog-post_8047.html

つまり、兵器的な核融合は、起爆剤にウラン、プルトニウムの核分裂を利用します。だから爆発する(できる)のです。核融合炉(発電炉)は、核分裂を利用しません。ウランやプルトニウムを使用しません。だから原理的に爆発しません。全く別のものと考えてください。
匿名 さんのコメント…
こういう為になる記事はもっとたくさんの人に読んでもらいたいと私は思います。核融合と核分裂の違いが分からない人や、核融合はどういったメカニズムで起こるかをよく理解していない人が多いのか、私の好きなPCゲームのキャラクターが「核融合を操る程度の能力」を持っているせいか風評被害を受けています。そういうところを見ると個人的になんか嫌な気持ちになります。もっと色々な人に核融合についてしっかり理解してほしいと思います。
☆のかけら さんの投稿…
コメントありがとうございます。またこの記事を見ていただいてありがとうございます。この記事を書いてから、もう8年が経ちますが、今でも「核分裂」のことを「核融合」と間違って言われることがあります。微力ながら、これからも色々な方法で「核融合」のことを知ってもらう努力を続けていきたいと思います。
匿名 さんのコメント…
できたら、電気を使わない生活にパラダイムシフトすることだよね

新しい技術は、なにが起こるか、だれにもわからないよ 

冬は薪であったまる、 夏は森の中で涼しい、 移動は馬  ってね
匿名 さんのコメント…
ありがとうございます。核融合と核融合の違い初めて知りました。
研究応援いたします。

☆のかけら さんの投稿…
管理人の☆のかけらです。
核融合に興味を持っていただき、とても嬉しいです。
応援ありがとうございます。

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核融合発電のしくみ

☆下の絵は、核融合発電の仕組みを簡単に書いたものです。核融合発電の中心は「核融合炉」です。(火力発電では「ボイラー」、原子力発電では「原子炉」と呼びます)炉の中で 燃焼 しているのは、水素の仲間( 重水素 と 三重水素 )を 真空状態に近い希薄なガス にし、 1億度 まで加熱したものです。これを 『プラズマ』 と呼びます。中では 核融合反応 が起きていて、反応で発生したエネルギーを熱として取り出して水を沸騰させます。そして蒸気でタービンを回し発電します。蒸気はもう一度海水で冷やして水に戻します。ここまでの話では、燃えているものが違うだけで、火力発電、原子力発電とおおまかな仕組みは同じです。(次世代の核融合発電では効率の高い 直接発電 も考えられています) ☆火力発電や原子力発電では燃焼している燃料から直接熱が発生し、熱を取り出すことができます。ところが核融合炉ではまず、 核融合反応でできた高速で飛び出してくる素粒子、つまり中性子 を周りを覆った厚さ1mの ブランケット と呼ばれる部分で受け止めます。ブランケットで受け止められた中性子は速度を落とし、その落ちた速度に相当するエネルギーが熱に変わります。(この時のプランケットの温度は500度ぐらい)この中性子の運動エネルギーが熱エネルギーに変わるところが従来の発電と異なる点です。 ☆材料(主に金属)に中性子が当たると、機能が劣化したり、 放射化(普通の材料が放射能を持つように変化) したりします。中性子が当たっても丈夫な材料、さらに放射化しにくい材料の研究が現在精力的に行われています。そして最初の核融合炉に使うことができる材料の候補もすでに見つかっています。当然のことですが、 生体遮蔽(作業者や周辺の住民に中性子を含む放射線が当たらないようにすること) が絶対に必要ですが、その技術はすでに開発されています。 ☆プラズマが周囲の壁に触れてしまうと、プラズマの温度が下がって、核融合反応が止まってしまいます。そのために 『磁場のかご』 を使ってプラズマを空中に浮遊させます。(このとき壁とプラズマは離れていて、その間は真空になっています)この『磁場のかご』を作り出すのが、ブランケットの外側にある 超伝導 マグネットです。超伝導マグネットはマイナス269度という極低温に冷やされます。 1億度という超高温 と...

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核融合と核分裂のエネルギー比較

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