スキップしてメイン コンテンツに移動

核融合発電の仕組み【2021改訂版】

 ☆下の絵は、核融合発電の仕組みを簡単に書いたものです。核融合発電の中心にあるのは「核融合炉」です。(火力発電の「ボイラー」、原子力発電の「原子炉」に相当します)核融合炉の中では、水素の同位体(重水素三重水素)を真空状態に近い希薄なガスにし、1億度まで加熱します。これを物質の第4の状態である『プラズマ』と呼びます。最も温度の高いプラズマの中心部では核融合反応が起きていて、反応で発生したエネルギーを熱として取り出して、水を(超臨界圧の)蒸気に変えます。そしてこの蒸気でタービンを回し発電します。蒸気はもう一度海水で冷やして水に戻します。ここまでの話では、エネルギーの源が違うだけで、火力発電、原子力発電とおおまかな仕組みは同じです。(次世代の核融合発電では効率の高い直接発電も考えられています)


☆火力発電や原子力発電では燃焼している燃料から直接熱が発生し、その熱を直接取り出すことができます。ところが核融合炉の燃料部分であるプラズマは、温度は高いものの希薄であるため、ここから直接熱を取り出せるわけではありません。核融合炉ではまず、核融合反応で発生した高速で飛び出してくる素粒子、つまり中性子を周りを覆った厚さ1mのブランケットと呼ばれる部分で減速させ捕獲します。ブランケットの中で中性子は速度を落とし、その落ちた速度に相当するエネルギーが熱に変わります。(この時のプランケットの温度は500度ぐらい)この中性子の運動エネルギーが熱エネルギーに変わるところが、従来の発電と異なる点です。

☆材料(主に金属)に中性子が当たると、機能が劣化したり、放射化(普通の材料が放射能を持つように変化)したりします。中性子が当たっても丈夫な材料、さらに放射化しにくい材料の研究が現在精力的に行われています。そして最初の核融合炉に使うことができる材料の候補もすでに見つかっています。中性子はエネルギーの源なので、ほとんどは核融合炉から外に逃げないようになっています。でも完全ではありません。当然のこととして、生体遮蔽(作業者や周辺の住民に中性子を含む放射線が当たらないようにすること)が絶対に必要ですが、その技術はすでに確立されています。中性子は、プラズマが消えれば発生しません。プラズマを消す手段はいくつかあって、簡単に消すことができます。

プラズマが周囲の壁に触れてしまうと、瞬時にプラズマが消えて、核融合反応が止まってしまいます。そのために『磁場のかご』を使ってプラズマを空中に浮遊させます。(このとき壁とプラズマは離れていて、その間は真空になっています)この『磁場のかご』を作り出すのが、ブランケットの外側にある超伝導マグネットです。超伝導マグネットはマイナス269度という極低温に冷やされます。1億度という超高温とマイナス269度という極低温が数メートルほどの距離で接近しており、いかに熱を遮断するかということも工学的に難しい技術です。ですが、1998年に日本(岐阜県)に建設された大型ヘリカル装置は、世界で初めて超伝導マグネットだけでプラズマを閉じ込めることに成功しました。さらに2017年には、プラズマの温度を1億度以上にすることにも成功しています。核融合発電はもう夢の技術ではありません。

コメント

けいご80 さんのコメント…
はじめまして。非常に興味深く記事を拝見させていただきました。数年前に土岐市の研究所を見学した時から、核融合が次世代の主電力源として早く実用化されることを期待し、ご研究に携わられている皆様を陰ながら応援しております。さて、質問が1件あります。先日、あるYouTubeで、核融合エンジンが搭載されたモビリティが近々登場する、という話を聴きましたが、まあこれはトンデモ話として、実際に、自動車や空飛ぶ自動車(これもまだ先!?)向けに、核融合エンジンが搭載されるのは、およそいつ頃になりそうか見当が付けられますか?
☆のかけら さんの投稿…
コメントありがとうございます。核融合エネルギーに興味を持っていただき、ありがとうございます。核融合エンジンのご質問ですが、この記事のように中性子の運動エネルギーを熱エネルギーに変換する方法ですと、自動車に搭載できるほど小型化するのは無理そうです。なぜなら、中性子を受け止める厚い板が必要になるからです。よって、重水素と三重水素の核融合反応ではなくて、全く別の反応を使う必要があります。例えば、ホウ素と陽子(水素の原子核)の核融合反応が考えられます。この反応ではヘリウムだけが発生します。このヘリウムからエネルギーを上手く取り出すことができれば、核融合エンジンも不可能ではないかもしれません。ただし、原理的にはできても、技術的なハードルは高く、いつ実現するかは見当がつきません。
匿名 さんのコメント…
滅茶苦茶分かりやすくて興味深かったです!
スケールが大きくてロマンがありますね、夢が広がります
2年後、名古屋大学エネルギー理工学科に入ってLHDで研究できるよう勉強頑張ります!

最近1ヶ月でよく読まれている投稿

核融合と核分裂の違い

★原子力発電所の事故以来、『核分裂』と言うべきところを『核融合』と言い間違えている発言をよく耳にするので、ここはしっかりと訂正しておきたいと思います。(こんな時期なので黙っておこうと思ったのですが、わたしにも少しは主張する権利があると思い・・) ★原子力発電所で起こる反応は『核分裂(カクブンレツ)』です。ウランのような重たい原子核が分裂して2つに割れることを『核分裂』といいます。(上側の絵)原子力発電所で『核融合』が起こることはありえません。(原子力発電所で起きた水素爆発は、水素と酸素の化学反応で、核融合ではありません)ついでに高速増殖炉(もんじゅ)も『核分裂』です。 ☆『核融合(カクユウゴウ)』は、水素のような軽い原子核が二つくっついて、一つになることです。(下側の絵)今、 世界中で研究 が行なわれている 『核融合』発電 は、水素をくっつけて(融合して)、ヘリウムにする 制御された 核融合反応 を使います。その時、『核分裂』を使うことはありません。 ☆だから、次のことは自明です。 『核融合』発電ではウランを使いません 。だから、 爆発もしない し、 暴走もしない し、連鎖反応もしないし、再臨界もしないし、メルトダウンもしないし、核燃料もないし、核物質もないし、核不拡散問題もないし、高レベル放射性廃棄物もありません。 【水素爆弾との違いは 私の別の記事 を参照ください】 ☆初期(まだ実現まで25~30年くらいかかるけど)の『核融合』発電も、 トリチウム(三重水素) という放射性物質(半減期が12年)を扱うため、100%クリーンとはいえません。しかし、放射能漏れによる潜在的リスク(発電所が保有する放射性物質の強さの合計)は原子力発電の1000分の1以下です。だから 最悪の事故 を考えても、周辺住民が避難するような事態にはなりません。

核融合と核分裂のエネルギー比較

核融合も 核分裂 も 原子核の質量欠損 を使ったエネルギーなので、少量の燃料で大きなエネルギーを得ることができます。工学的に大きな意味はないのですが、核融合と核分裂のエネルギーを比較してみましょう。 1個のウラン(U)原子核が核分裂したときに発生するエネルギーは、約200MeV(メガ電子ボルト)です。(MeVは物理で使うエネルギーの単位です。大きさを比較するだけなので、ここでは詳しい説明は省略します)一方、1個の 重水素 (2H)原子核と1個の 三重水素 (3H)原子核が核融合したときに発生するエネルギーは、約17MeVです。そうです、1回の反応で発生するエネルギーは、核分裂の方が核融合より約10倍大きいことが分かります。 ところが、こんな比較もできるのです。同じ燃料の重さから発生するエネルギーの比較です。ウランは水素よりかなり重たいので、燃料の単位重さ当たりで発生するエネルギーは、逆に核融合の方が核分裂より4倍大きくなります。 もっと分かりやすく表現すると、核分裂の燃料ウラン1グラムは「石炭3トン分」のエネルギーに相当します。一方、核融合の燃料(水素)1グラムは「石炭13トン分」に相当します。さらに、これは「石油約8トン分」です。いずれにしても、少ない燃料で大きなエネルギーが得られることにかわりありません。 ※ここでは反応で生まれるエネルギーを計算しました。発電所で電気エネルギーに変換すると、発電効率がかけ算されるので、少し数字が変わります。

新しいブログサイトへ引っ越しします|「ゆるりと学ぶフュージョン」始めます

 この「星のかけら 核融合」というブログサイトでは、 これまで 核融合にまつわる情報を、できるだけ分かりやすく 発信してきました。 とくに、私の職場にある超高温プラズマをつくる実験装置 大型ヘリカル装置(LHD) による重水素実験について、 地元の方々の不安や誤解を、少しでも和らげたい── そんな思いで書き続けてきたブログです。 その重水素実験もすでに終了し、 このブログも当初の役目をひと区切り終えたと感じたことから、 ここ2年ほど更新を止めていました。 今回あらためて、 「ゆるりと学ぶフュージョン」 という新しいブログサイトを立ち上げることにしました。 これから社会全体として、 いよいよ 「核融合発電所を実際につくっていこう」 という段階に入りつつあります。 その過程で、もし再び不安や誤解が広がってしまうと、 せっかくの計画が進まなくなるおそれもあります。 だからこそ、 今あらためて やさしく、落ち着いて学べる場 が必要だと感じました。 また、国の方針などもあり、 最近では「核融合発電」という言い方に加えて、 「フュージョンエネルギー」 という言葉も使われるようになってきました。 「フュージョンって何?」 「核融合とどう違うの?」 そう感じる方も多いと思います。 そこで、これまでこのブログでお伝えしてきた内容も大切に引き継ぎながら、 用語は「フュージョン」に切り替え、 より入門的で、ゆるやかに学べる形 で再出発してみようと思いました。 ぜひ、新しいブログサイト 「ゆるりと学ぶフュージョン」 にもお立ち寄りください。 ▶ 入口はこちらです https://yurufusion.hatenablog.jp/

核融合発電は爆発しません

★今日は広島に原子爆弾(原爆)が投下された日。原子爆弾はウランやプルトニウムの核分裂反応を利用した非人道的な兵器です。世界は協力して核廃絶を実現しなければなりません。 ★核融合エネルギーにも「核」という文字がつきます。残念なことですが核融合エネルギーも非人道的兵器に利用されたことがあります。水素爆弾(水爆)と呼ばれるものです。1950年代に米国によって実験が行われました。第5福竜丸が被曝したのも水素爆弾の実験(1954年)です。 ★水素爆弾は原子爆弾(ウランかプルトニウム)の中心に重水素化合物(おそらく固体)を入れて、核融合反応を起こして爆発力を強めたものです。つまり核融合反応を起こすための起爆剤に原子爆弾を使ったもので、原子爆弾を使わなければ水素爆弾はできません。また水素爆弾の放射性降下物のほとんどがウランやプルトニウムからできたものです。 ☆「制御された」核融合エネルギー( 核融合発電所 )は、純粋な 重水素 と 三重水素 (どちらも水素の同位体)の気体を混ぜて、 真空に近い状態 でゆっくりと反応させます。ウランやプルトニウムは使いません。核融合発電所の発電量は火力発電とほぼ同じ100万キロワット程度です。これに対して水素爆弾は、核融合発電で生じる「3年分の総エネルギー」を、10万分の1秒という一瞬に放出します。核融合発電と水素爆弾は反応の速さが桁違いに違う、全く別のものなのです。 ☆爆発とは、高圧力に圧縮された物質が短時間に外に飛び散ることです。核融合発電の燃料は温度が高くなっても 数気圧にしかなりません 。これでは爆発しません。 ☆ 核融合発電 は爆発の心配のない発電システムなのです。

核融合実験装置からのエネルギー発生〜2022年のニュースから

 つい最近、レーザー核融合実験装置が、投入した以上のエネルギーを発生したとのニュースが流れ、国内のテレビニュースでも報道されました。ここでは、今年の2月に発表された磁場核融合実験装置のエネルギー発生ニュースと合わせて紹介したいと思います。 まず、基本的なところから説明します。核融合発電開発を目標にした実験装置でエネルギーを発生するためには、 実燃料である重水素と三重水素 (どちらも水素の同位体)を混合して、高温プラズマにする必要があります。その温度は 1億度 です。その方法に二通りあって、このブログサイトで主に紹介している「 磁場(閉じ込め)核融合 」と「慣性(閉じ込め)核融合」の2つです。「磁場核融合」では、 超伝導磁石で作られた強い磁場の容器 (直径は10メートル級)の中に、真空状態に近い燃料ガスを入れ、外部から定常的に加熱することでゆっくりと超高温にします。一方、「慣性核融合」では、直径数ミリの球状の容器に燃料ガスを封じ込め、周囲からレーザー光線を当てて、瞬間的に(1ナノ秒=10億分の1秒程度の時間)、超高温にします。同じ温度にするにしてもプラズマの粒子密度と閉じ込め時間が全く違います。 さて、先日(2022年12月)のレーザーを用いた慣性核融合のニュースから紹介します。成果を発表した装置は、ローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)にある国立点火施設(NIF)です。315万ジュール(3.15MJ)の核融合エネルギーが発生しました。この時、サッカースタジアム規模のレーザー発生装置から小さな燃料ペレットに与えられたエネルギーは205万ジュール(2.05MJ)でした。つまり、出力と入力が釣り合うブレークイーブンを越えたことになります(慣性核融合ではこれを「点火」と呼んでいます)。出力/入力を計算したものをQ値と呼ぶので、Q>1を達成したことになります。 NIFの内部写真( 米国NNSAのfrickr (外部リンク)より) 次は2022月2月に発表された英国の欧州トーラス共同研究施設(JET)という装置のエネルギー発生のニュースを紹介します。JETは磁場核融合の実験装置で、特に トカマク方式 と呼ばれるものです。2021年12月21日の実験で、JETは5秒間に5,900万ジュール(59MJ)のエネルギーを発生しました。この時のQ値は0.33でした。ブレ...