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大型ヘリカル装置(LHD)の重水素実験プロジェクト完了

私の働く「自然科学研究機構 核融合科学研究所」の主力装置である「大型ヘリカル装置(通称、LHD)」が、2017年から行ってきた「重水素実験」を、2022年12月27日に完了しました(外部リンク: 核融合科学研究所のHP )。重水素実験というのは、水素の同位体である 重水素 ガスを用いたプラズマ生成実験です。(核融合反応を起こす核融合実験ではありません。)重水素をもう少し説明すると、下の絵のように、水素の原子核は陽子1個であるのに対し、重水素には、陽子に中性子がくっついています。水素と重水素は化学的性質はほとんど同じですが、重水素の方が重さが2倍になります。また、重水素は自然界にも0.015%だけ存在しています。 どうして重水素を用いた実験を行ったかというと、現在各国が開発している 核融合発電で使う燃料 は、重水素と 三重水素 (これは3倍重たい水素)の2種類の水素の混合ガスなのですが、水素の種類によって プラズマ の温度の上がり方に違いがあることが分かってきたからです。これまでの理論だと、重い水素の方が強い遠心力が働いて、 磁場のかご から逃げていき、温度が上がりにくいと考えられていました。ところが、 トカマク型 の装置で逆の現象、つまり重水素の方が温度が上がりやすいことが分かってきました。理由は分かりませんが、核融合炉ではより重たい水素を使うので、これは悪いことではありません。そこで、 ヘリカル型 の装置でも、重水素の方が温度が上がりやすいかどうか、またそうであれば、その理由を調べることになったのです。 実験の結果は明らかでした。2017年に重水素実験を開始してすぐに、それまでの水素の実験では最高温度が9,400万度だったのが、一気に1億2,000万度にまで温度が上がりました。これは核融合炉のプラズマに最低限必要な温度です。 トカマク型 だけでなく、 ヘリカル型 でも同じ現象が見られたということで、これが普遍的な現象だと分かりました。それからは、どうして重水素の方が温度が上がりやすいのかの解明に取りかかりました。様々な条件(加熱の方法、粒子の数密度、水素と重水素の割合など)で実験を行い、温度が上がりやすくなる条件を調べ、多くの成果が得られました。 例えば、次のような研究成果があります。 https://www.nifs.ac.jp/news/researches/...

核融合実験装置からのエネルギー発生〜2022年のニュースから

 つい最近、レーザー核融合実験装置が、投入した以上のエネルギーを発生したとのニュースが流れ、国内のテレビニュースでも報道されました。ここでは、今年の2月に発表された磁場核融合実験装置のエネルギー発生ニュースと合わせて紹介したいと思います。 まず、基本的なところから説明します。核融合発電開発を目標にした実験装置でエネルギーを発生するためには、 実燃料である重水素と三重水素 (どちらも水素の同位体)を混合して、高温プラズマにする必要があります。その温度は 1億度 です。その方法に二通りあって、このブログサイトで主に紹介している「 磁場(閉じ込め)核融合 」と「慣性(閉じ込め)核融合」の2つです。「磁場核融合」では、 超伝導磁石で作られた強い磁場の容器 (直径は10メートル級)の中に、真空状態に近い燃料ガスを入れ、外部から定常的に加熱することでゆっくりと超高温にします。一方、「慣性核融合」では、直径数ミリの球状の容器に燃料ガスを封じ込め、周囲からレーザー光線を当てて、瞬間的に(1ナノ秒=10億分の1秒程度の時間)、超高温にします。同じ温度にするにしてもプラズマの粒子密度と閉じ込め時間が全く違います。 さて、先日(2022年12月)のレーザーを用いた慣性核融合のニュースから紹介します。成果を発表した装置は、ローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)にある国立点火施設(NIF)です。315万ジュール(3.15MJ)の核融合エネルギーが発生しました。この時、サッカースタジアム規模のレーザー発生装置から小さな燃料ペレットに与えられたエネルギーは205万ジュール(2.05MJ)でした。つまり、出力と入力が釣り合うブレークイーブンを越えたことになります(慣性核融合ではこれを「点火」と呼んでいます)。出力/入力を計算したものをQ値と呼ぶので、Q>1を達成したことになります。 NIFの内部写真( 米国NNSAのfrickr (外部リンク)より) 次は2022月2月に発表された英国の欧州トーラス共同研究施設(JET)という装置のエネルギー発生のニュースを紹介します。JETは磁場核融合の実験装置で、特に トカマク方式 と呼ばれるものです。2021年12月21日の実験で、JETは5秒間に5,900万ジュール(59MJ)のエネルギーを発生しました。この時のQ値は0.33でした。ブレ...

海外のベンチャーが核融合発電の研究開発に着手 その動向に注目が集まる

宇宙開発において、国内外のベンチャーが次々と資金を調達し、事業を加速させていることは、皆さんご存じのことと思います。イーロン・マスク氏率いるスペースX社の新型宇宙船が野口宇宙飛行士を国際宇宙ステーションに送ったことは記憶に新しいことです。 一方、あまり知られてはいませんが、核融合発電の開発においても、ベンチャーによる資金調達と研究開発が活発化しています。すでに中規模の実験装置で高温プラズマの生成に成功した事例もあります。今回はそのようなベンチャーの現状を紹介します。 まず紹介するのは、英国のトカマク・エナジー社です。彼らはST40という球状トカマク装置を開発し、すでに1,500万度のプラズマ生成に成功しています。そして民間として初の1億度(核融合発電のプラズマに必要な条件)達成を目標に実験を行っています。(【追記】2022年3月10日に民間で初の1億度達成を発表しました。)米国でも数社のベンチャー企業が生まれています。コモンウェルス・フュージョン・システムズ社は、マサチューセッツ工科大学(MIT)から独立したベンチャーで、MITで開発された技術を利用し、世界に先駆けて核融合発電を実現しようとしています。現在、MITと共同で、世界初のネットエネルギー発生(入力エネルギーより出力エネルギーが大きいこと)を目指してトカマク装置SPARCの建設に着手しています。ジェネラル・フュージョン社とTAEテクノロジーズ社は、トカマク型とは違った方式の装置で核融合発電の研究開発を行っています。 注目すべきは、いずれのベンチャーにも巨額の投資が集まっており、名だたるIT企業も名を連ねていることです。これまでの核融合の研究開発は、主として国主導で行われてきました。日本も然りです。しかし、これからは官民が協力して核融合発電の早期実現を目指す、そんな段階に入ってきたように思います。 Tokamak Energy社のHP: https://www.tokamakenergy.co.uk/ Commonwealth Fusion System社のHP: https://cfs.energy/ General Fusion社のHP: https://generalfusion.com/ TAE Technologies社のHP: https://tae.com/ この文章は私が編集している広報誌の記...

核融合発電の仕組み【2021改訂版】

 ☆下の絵は、核融合発電の仕組みを簡単に書いたものです。核融合発電の中心にあるのは「核融合炉」です。(火力発電の「ボイラー」、原子力発電の「原子炉」に相当します)核融合炉の中では、水素の同位体( 重水素 と 三重水素 )を 真空状態に近い希薄なガス にし、 1億度 まで加熱します。これを物質の第4の状態である 『プラズマ』 と呼びます。最も温度の高いプラズマの中心部では 核融合反応 が起きていて、反応で発生したエネルギーを熱として取り出して、水を(超臨界圧の)蒸気に変えます。そしてこの蒸気でタービンを回し発電します。蒸気はもう一度海水で冷やして水に戻します。ここまでの話では、エネルギーの源が違うだけで、火力発電、原子力発電とおおまかな仕組みは同じです。(次世代の核融合発電では効率の高い 直接発電 も考えられています) ☆火力発電や原子力発電では燃焼している燃料から直接熱が発生し、その熱を直接取り出すことができます。ところが核融合炉の燃料部分であるプラズマは、温度は高いものの 希薄である ため、ここから直接熱を取り出せるわけではありません。核融合炉ではまず、核融合反応で発生した高速で飛び出してくる素粒子、つまり 中性子 を周りを覆った厚さ1mの ブランケット と呼ばれる部分で減速させ捕獲します。ブランケットの中で中性子は速度を落とし、その落ちた速度に相当するエネルギーが熱に変わります。(この時のプランケットの温度は500度ぐらい)この中性子の運動エネルギーが熱エネルギーに変わるところが、従来の発電と異なる点です。 ☆材料(主に金属)に中性子が当たると、機能が劣化したり、 放射化(普通の材料が放射能を持つように変化) したりします。中性子が当たっても丈夫な材料、さらに放射化しにくい材料の研究が現在精力的に行われています。そして最初の核融合炉に使うことができる材料の候補もすでに見つかっています。中性子はエネルギーの源なので、ほとんどは核融合炉から外に逃げないようになっています。でも完全ではありません。当然のこととして、 生体遮蔽(作業者や周辺の住民に中性子を含む放射線が当たらないようにすること) が絶対に必要ですが、その技術はすでに確立されています。中性子は、プラズマが消えれば発生しません。 プラズマを消す手段 はいくつかあって、簡単に消すことができます。 ☆ プ...

新しい核融合実験装置の建設風景など貴重な写真が見られるサイトの紹介

 写真家 西澤 丞さんが立ち上げられた「Workers in Japan | 人と仕事の情報発信サイト」で核融合実験装置JT-60SAが取り上げられ、製作過程の貴重でインパクトのある写真がアップされています。ぜひ皆さんに見ていただきたいサイトです。 ↓ https://workers-in-japan.com/2021/03/16/naka-fusion-jt60sa-japanese/ まず、西澤さんがオープンされたこのサイト、「現場の人の熱い思いを伝えたい。かっこよく働く姿を見てもらいたい。」と述べられているように、世の中であまり知られていない仕事の現場に入って、働いている人の息づかいが分かるくらいの近さで写真を撮られています。そこで働いている皆さんがとてもかっこよく見えます。 さて、核融合実験装置に話しを戻すと、この新しい装置は茨城県に建設され、これからプラズマを作る実験が始まろうとしているJT-60SAという装置です。実は1985年から2008年まで実験をしていたJT-60という装置を作り替えた後継装置です。西澤さんは前のJT-60の解体作業も取材されていて、当時の貴重な写真も今回公開されています。JT-60SA建設の写真で特に気になったのが、溶接作業の写真です。私も核融合実験装置LHDの建設に携わったので、溶接技術の重要さが分かっています。「真空容器には高精度が求められたので、現場には張り詰めた空気が漂っていた。」と書かれていますがそのとおりです。真空容器ですから少しのピンホールも許されません。そして溶接をするとどうしても金属が歪んでしまい設計図どおりの形状にならないのです。核融合実験装置では最終形状に対してミリ単位の精度が要求されますので、溶接には一段高い技術が必要となるわけです。 こういう写真から核融合発電や核融合研究に興味をもってもらえると嬉しいなと思います。

本の紹介「図解でよくわかる核融合エネルギーのきほん」

  本当に久しぶりに「核融合」に関する解説書が出版されました。「図解でよくわかる核融合エネルギーのきほん」(誠文堂新光社)です。これまでの解説書と違って、特定の著者が書いたものではなく、文部科学省、研究機関、大学が協力してまとめられたもので、内容に偏りがなく正確に書かれています。かと言って難しくはなく、これまでの解説書の中では最も分かりやすいものです。各項目が見開きに纏められ、右ページが図解になっています。(ある意味、どこから読んでも大丈夫!)また科学的な内容だけでなく、経済面や教育面(そして核融合ロケットまで)についても総合的に書かれています。所々にあるコラムも興味深く読むことができます。核融合について知りたくなったら最初に読むのに最適な入門書だと思います。 余談ですが、このブログにある図も引用されましたよ(P71)。

全国の核融合研究施設が素晴らしい写真で紹介されたサイト

写真家、西澤丞さんのブログ「核融合の研究と研究施設の紹介。写真で伝えることの広報効果とは。」で、日本の核融合研究が紹介されました。核融合科学研究所の大型ヘリカル装置LHDをはじめ、全国の研究施設が、素晴らしい写真と共に分かりやすく説明されています。ぜひご覧ください。↓ https://joe-nishizawa.jp/2020/04/23/public-relations-fusion-japanese/ 西澤さんのブログの中に、心に残る文章があった(本当にそうだなと思った)ので、引用させてもらいます。 『未来は、日々の暮らしの中で様々なことを選択していった先にあるものですので、間違ったイメージや思い込みだけで選択を続けてゆけば、間違った未来を手繰り寄せてしまいます。しかし、これまでの日本は、「言わなくてもわかる」とか「自分の仕事を自慢するのは恥」といった考え方が受け継がれて来たせいか、良い仕事をしていても、その内容を伝えることに関して消極的だったように思います。結果として、実際とは異なるイメージが流通していたり、仕事によっては、その存在さえ知られていなかったりしています。それでは、あまりにももったいないし、未来のことを考えると危険でさえあります。』 私も広報担当として、核融合研究について、これまで多くの方と話しをさせてもらいました。こうやってブログも開設しています。ですが、核融合研究に対する認知度はまだまだ低いままです。西澤さんの言うとおり核融合研究は「存在さえ知られていない」し、当初の第一印象は大抵「怖い」です(お話ししているうちに印象は変わっていくのですが)。このような状況では、研究を担う人材が集まらないし、核融合発電の実現(国民の理解を伴う)も遠のきます。ですから広報がとても大切で、頑張ってはいるのですが、思ったほど成果がでていないようです。だからもっと効果的な広報を考えていかなければいけません。印象的な写真で伝えることもその一つだと思います。

日本の核融合研究を紹介するポータルサイトが公開されました

日本の核融合研究全体を紹介するポータルサイトが公開されました。 スマホにも対応しています。 こちらです(外部リンク)↓ http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/fusion/ 文部科学省(文科省)が運営しているサイトですが、全国の主要研究施設、大学が協力していますので、網羅的に国内の研究状況を知ることができます。Photo Galleryも充実しています。また核融合研究に興味ある学生に対するキャリアパスも紹介されています。 目次は次のとおり 核融合とは Photo Gallery(JT-60SA、LHD、GEKKO XII、LIPAc) 核融合プロジェクトを支える人 研究所を訪問する 核融合を学ぶ 核融合エネルギーを実現する 研究費一覧、我が国の核融合施策 核融合に親しむ ぜひ訪れてみてください。

常温核融合についての最新の研究結果

先日、科学雑誌Natureに「常温核融合」についての最新の研究結果が発表されました。もう忘れかけていた話題であり、かつ著名な雑誌への投稿ということで興味津々でした。そして、この研究が2015年からGoogleが出資して始められたことがまた驚きでした。 さてその研究成果ですが、要旨部分を訳すと次のとおりです。 「1989年の常温核融合を見つけたという主張は、将来のクリーンエネルギーになるかもしれないとして広く歓迎された。しかしその後、その現象の再現に失敗すると、学界はこの主張に対する疑念を強めた。そして事実上、この研究を続けることが許されなくなった。そのような判断が時期尚早だったかももしれないと思い立ち、常温核融合が科学的厳格さを持つ高い水準に達するまで再評価する複数の研究機関によるプログラムに着手した。ここでは私たちの成果について述べるが、そのような現象のいかなる証拠も今のところ得ていないということである。とはいえ、我々の研究の副産物は、高水素化金属や低エネルギー核反応についての新しい洞察を得たことである。そして、この未開のパラメータ空間の中には、まだ完了していない非常に興味深い科学が残っていることを我々は主張する。」 上手く日本語に訳せていませんが、ニュアンスは間違ってないと思います。つまり、「そのような現象(常温核融合のこと)のいかなる証拠も今のところ得ていない」ということなので、常温核融合は結局再現できなかったという結論でした。ですが、研究の過程で様々な未知の現象が見つかっているようです。 参考:Curtis P. Berlinguette, et al., Revisiting the cold case of cold fusion, Nature volume 570, pages 45–51 (2019)

空の太陽と地上の太陽「核融合発電」の違い

☆太陽中心では、4個の水素の原子核が融合して、最終的にヘリウムに変わる核融合反応(原子核が融合する反応)が進行しています。このとき、約0.7%の 質量が消失 して、そのエネルギーが光(電磁波)として放出されています。今も太陽は、1秒間に約42億キログラムずつ軽くなっているそうです [1]。でも太陽は想像以上に巨大なので、あと50億年は核融合反応を続けられます。 太陽中心で起こっている核融合反応 ☆ところがこの反応(特に最初の水素同士の融合反応)は、非常にまれにしか起こりません。個々の水素原子核について見ると、その寿命が10億年、つまり10億年に1回くらいしか反応しないそうです。だから、太陽の中心のエネルギー発生密度は、1立方メートルあたり270ワットしかありません [2]。(ちなみに人間は約1,000ワット)これでは、たとえ小さな太陽を地上に作ったとしてもエネルギー源にはならないことは明白です。 ☆そこで、地上の太陽「 核融合発電 」では、普通の水素ではなく、その同位体である 重水素 と 三重水素 の核融合反応を使います。(重水素の記号Dと三重水素の記号Tを使ってD-T反応とも言います)これが一番起こしやすい、確率の高い反応だからです。幸い地球上には初期の宇宙で作られた重水素が残っていました。海には50兆トンもの重水素があります。三重水素は、自然界にあまり存在しませんが、同じく海水に含まれる2,000億トンの リチウムから生産 することができます。地球上には奇跡的に核融合発電に使用できる燃料が存在していたのです。もし、これらが地球上に存在しなければ、核融合発電の構想は生まれなかったでしょう。 地上の太陽「核融合発電」で用いる核融合反応 ☆D-T反応では、 中性子 とヘリウムが発生しますが、 中性子の運動エネルギーを熱エネルギーに変換 して発電に使います。一方、ヘリウムの運動エネルギーは、プラズマの温度を維持するために使われます。いずれにしても、この反応は 核分裂反応 と異なり、中性子を介在した連鎖反応でないことが分かります。従って、止めることが容易であり、原理的に暴走しません。 参考文献 [1] Newton別冊「アインシュタインの世界一有名な式 E=mc2」 [2] ローレンス・リバモア国立研究のWebペ...

高温超伝導を使って核融合炉を小型化~MITが民間から投資を受け研究開始

3月9日にMIT(マサチューセッツ工科大学)から「MITと新しく設立した会社が核融合発電に向けた新しいアプローチを立ち上げた~目標は15年以内にパイロットプラントを運転すること」というインパクトのある記事が発表されました。 http://news.mit.edu/2018/mit-newly-formed-company-launch-novel-approach-fusion-power-0309 (外部リンク) まず驚いたのが、このプロジェクトがイタリアの民間会社などから支援を受けてスタートすることです。(正確にはMITと会社が共同で新しい会社を作っているみたいです)資金は5,000万ドル(日本円で約50億円)です。日本の核融合研究で、民間企業からこれほどの支援を受けた例はありません。 次が、プラズマを閉じ込める磁場をこれまでの4倍に強くして、装置そのものを小型化しようという計画です。磁場を4倍にすると、理論上、核融合出力が10倍になります。磁場を4倍にするためには、もちろん新しい技術が必要です。そこで登場するのが、1980年代に発見されて、現在やっと市販されるようになった「高温超伝導体」と呼ばれる材料を使うことです。(高温と言っても、実際には氷点下の極低温で使用されます。従来の超伝導体に比べると少し高温で使えるという意味です。)上の写真が実際に購入した高温超伝導体の電線です。マイナス196度に冷やすと150アンペアの電流を流すことができます。(家庭のコンセントは15アンペア)写真を見て分かるようにカセットテープにそっくりの電線で、厚さは0.1ミリ、幅は4ミリしかありません。このような高温超伝導体の電線をコイル状に巻いて、電流を流すことで、強力な電磁コイルができるわけです。しかし、強力な磁場を作ると巨大な電磁力がかかるので、その支持は技術的に簡単なことではありません。 MITでは、今後3年間で3,000万ドルを研究費に使い、世界で最も強力で径の大きな電磁コイルを作るとしています。そしてそのコイルを使って、15年以内に100メガワット(10万キロワット)出力×10秒パルスのパイロットプラント(名前はSPARCトカマク)を完成させる計画です。(なお、これは核融合出力で、まだ電気への変換はしません。)そしてこの技術をもとに核融合発電所の開発に続い...

大型ヘリカル装置の超伝導導体を詳しく解説

上の写真は、プラズマ生成実験を行っている核融合科学研究所の 大型ヘリカル装置(LHD) に使われている「超伝導導体」の断面写真です。外形が12.5ミリ×18ミリで、ちょうど親指くらいの太さです。写真は切り出した短いサンプルを写したものですが、実際の導体の長さは、合計で36キロメートルにもなります。この導体を巻いて電磁石(マグネット)を作るのですが、その大きさは直径約10メートルと巨大で、下の絵の青い部分のように二重螺旋の形をしています。導体を巻くことを巻線といいますが、巻線には昼夜問わず作業して1年半掛かりました。なんと導体は合計で900周しています。 さて、超伝導導体のすごいところは、この親指ぐらいの太さで、1万アンペアを流すことができることです。普通の銅線であれば、数100アンペアぐらいしか流せないはずです。(ちなみに家庭の電気製品のケーブルは15アンペア以下)銅線は電流を流しすぎると熱くなりますよね。これは抵抗があって電力を消費しているからです。しかし超伝導導体は抵抗がゼロで、電力を消費しません。装置では、電磁コイルに電流を流すわけですが、流しっぱなしの状態では、電力を消費しない、つまり電気代がいらないということになります。(実際には、少しだけ電力を消費しますが、詳しいことは省略します) そんなことなら、世の中の電線を全て超伝導にすればよいではないかという話になりますが、そうはいかない事情があります。現在発見されている超伝導体はすべて冷やさないとその能力を発揮しないのです。LHDの超伝導体はニオブとチタンの合金ですが、マイナス270℃に冷やしてから電流を流しています。マイナス270度といえば、絶対零度からたった3℃高いだけです。そこまで冷やすためにはクーラーの親玉みたいな冷凍機が必要で、そこで電力を使ってしまいます。核融合発電になると、その電力が発電した電力の1割にも満たないから成立するのです。 最後に、上の写真の断面構造について説明しておきます。周りの銅色の部分は、まさしく銅です。下側の四角い白い部分、これはアルミニウム。そして、その上側の黒い丸い線15本が二列に俵積みになっている部分、これがニオブチタン超伝導線(撚線)です。アルミニウムがどうして付いているかというと、もしも導体の温度が上がって超伝導性が失われたときに、電流を一...

身近なプラズマいろいろ

オーロラ、炎、稲妻、星雲、太陽コロナ、蛍光灯、ネオンサイン、プラズマテレビなど、身近には色々な プラズマ があります。これらにある共通点がありますよね。そう、「光っている」ことです。 前回プラズマ では、原子から電子が剥がれる( 電離 する)と説明しましたが、逆に原子に電子が戻ることもあります。その時に光を発するのです。だから、ガス状のものが光っていると思ったら、それは大抵プラズマです。そういえば「火の玉」もプラズマだという話があります。(実際に火の玉を見たことありませんが) 上の絵に、色々なプラズマを整理してみました。横の軸は、1立方センチメートルの中に何個の電子(または イオン )が電離して存在するかという数(密度)です。10の右肩に数字を付けたものは、「10のべき乗」といって、すごく大きな数字を表すときに使います。ちなみに、空気(0℃、1気圧)の気体分子の密度は、10の19乗くらいです。ですから、数字自体は大きいですが、空気より密度は小さいということになります。縦の軸は、温度を表しています。 これらの内、比較的温度の低い、オーロラ、炎、稲妻は、気体の全てが原子・分子が電離しているわけではなくて、ごく一部だけです。このようなプラズマを「弱電離プラズマ」と言います。このプラズマは、電子だけが温度が高い(イオンは低い)ので、上の絵では、電子の温度を表しています。絵には載せませんでしたが、蛍光灯の電子は1万度にもなります。どうして蛍光灯を触っても火傷しないのででしょうか。それは、ごく一部の電子が高温なだけで、他のほとんどの気体分子やイオンは温度が低いので、平均すると火傷するような熱さにはならないのです。 一方、比較的温度の高い星雲、太陽コロナなどは、完全に電離してしまっているので、「完全電離プラズマ」と呼ばれます。こちらは、イオンの温度も高くなります。お気付きかもしれませんが、完全に電離していたら、イオン=原子核です。将来の核融合発電に必要なプラズマを研究している 大型ヘリカル装置 のプラズマもほぼ完全電離プラズマで、イオンの温度が 1億度 にもなります。 上の絵に、 太陽の中心部 がないのですが、これは別格です。粒子の密度が10の26乗もあり、上の絵には入りきらないのです。比重にすると、金属でも重たい鉛の10倍以上で、プラズ...

プラズマってなに?おおざっぱにいうと

核融合発電にも利用されるプラズマ。今回は、プラズマの説明をざっくりとしてみようと思います。まず、原子がプラスの電気を帯びた原子核とその周りにあるマイナスの電気を帯びた電子からできていることを思い出してください。電子の数は一つのときもあるし、多数のときもあります。(つまり上の絵は、省略して単純に書いています) その電子が、原子から離れたとしましょう。何個の電子が離れたかはここでは考えないことにします。電子が離れた残りの原子を、特別に「イオン」と呼びます。(スーパーの名前と同じなので覚えやすいですね)そして電子が離れることを、そのまま「電離(でんり)」と呼びます。 気体は、分子の集まりです。分子は原子が1個または複数個くっついたものです。空気だったら窒素分子(窒素原子2つ)と酸素分子(酸素原子2つ)が80%対20%で混じり合っています。上の絵は、分子が1個の原子からできているとして、気体を書いています。(これも単純化のため) 気体の温度が数千度くらいになると、最初に言った「電離」が始まります。気体で電離が起こると、上の絵の右のように、イオンと電子がバラバラに自由に動き回っている状態になります。これ状態を「プラズマ」と呼びます。 プラズマ特徴は、気体が電離したものだから、プラスの数とマイナスの数が同じです。上の絵だと10個ずつです。だから、全体としてみると気体とおなじように電気的に(ほぼ)中性です。ところが、このプラズマに電池につながった電極を近づけると、イオンはマイナスの電極に向かって走り、電子はプラスの電極に向かって走り出します。つまり、電流が流れるのです。これは普通の気体には見られない特徴です。 また、磁石に対しては、離れようとする「反磁性」という性質があります。磁石にくっつく鉄と反対の性質です。この性質をうまく利用すると、磁場でプラズマを閉じ込めることができ、 核融合発電 の原理にもなっていきます。 身近にもプラズマは存在しますので、次回紹介しますね。

放射線についてのわかりやすい参考書

【菊池誠(物理学者)✕小峰公子(ミュージシャン)おかざき真里(絵とマンガ)「いちから聞きたい放射線のほんとう いま知っておきたい22の話」筑摩書房】  最近、放射線について話すことが増え、分かりやすい説明をしたいと思い、名古屋の丸善に参考書を見に行きました。もちろん、原発事故以降の関心の高まりで数多くの関連書籍が出版されていました。少し立ち読みしたら、不安を煽るものから、安心を強調したものまで、極端に意見が別れていました。それくらい極端な意見の方が売れるんだろうなと勘ぐってしまいます。  そんな中で、平積みになっていた少しゆるい感じの本が目に止まりました。帯に「放射線のしくみから、からだに与える影響まで、いまこそ知っておきたい大事なことを、数式を使わずにていねいに解説。放射線が気になる人のための、もっともベーシックでわかりやすい本」と書いてありました。実際、対談形式になっていて、確かに読みやすい本です。読むのに時間もそれほどかかりません。それより驚いたのは、この本の内容、かなり正確で、極端な意見(学説とかデマ)が排除されています。中立の立場で書かれているいるなと感じました。 ※私が放射線に関して正確かどうかを判断する基準は、直線しきい値なしモデル(LNTモデル)以外を強く主張しているかどうかです。LNTモデル以外を強く主張しているものを極端な意見と感じてしまいます。  私の購入したものは、2014年の発行でまだ初版でした。あまり売れていないのかもしれません。放射線が気になる人もそうでない人も、多くの人に読んでほしい本です。 【田崎晴明著「やっかいな放射線と向き合って暮らしていくための基礎知識」朝日出版社】  最初に紹介した本の後書きで紹介されていました。若干難しくなりますが、わからないことはわからないと書いていますし、すごく正確だと感じます。私にとっても、大変参考になりました。  最後にこのように書かれていますので引用させてもらいます。 「正しく怖がれ」と言われて恐怖感が消えるようだったら、そんな楽な話はない。 ぼくは「気にする人」たちには「気にする自由」があると信じている。恥ずかしがらず、堂々と、「気になる、心配だ」と言うべきだし、まわりの人も「気にする自由」を認めるべ...

核融合科学研究所の重水素実験に対する誤った情報の指摘

  核融合科学研究所(岐阜県土岐市)の 大型ヘリカル装置 (LHD)で、 重水素ガス (無害)を用いた プラズマ 生成実験が開始されました。普通の水素ガスを用いるより重水素ガスを用いた方が、プラズマの温度が上がると言われていて、数年以内には、装置としての目標である 1億2,000万度 のプラズマ生成を達成すると思います。(現在の水素ガスの実験での達成値は9,400万度)この実験は、将来の 核融合発電 を実現するために必要不可欠なものです。  この実験は 基礎段階の学術的なもの で、 核融合反応を起こす(エネルギーを発生する)ことが目的ではありません が、重水素同士が核融合反応( D-D反応 )が起きる確率はゼロではなく、実験に使った重水素のごく僅かが核融合反応を起こします。その時に放射性物質である 三重水素(トリチウム) と放射線である 中性子 が発生します。トリチウムは回収、中性子はコンクリート壁(もちろん天井もコンクリート)で遮蔽という安全対策をとり、もちろん法令を遵守して実験を行います。また 1億度 と言っても、 周りの壁が溶けることはありません 。  しかし、この実験には反対運動も根強く、広く市民に説明し、地元自治体の同意を得、実験を開始するまでに、約10年を費やしました。それでも、実験を開始する時点で、ネット上に誤った情報が多く流れ、市民の皆様に不安を与えてしまいました。もし、実験に不安に感じておられる方で、偶然この記事を見られたとしたら、最近のネット上の情報の誤りを指摘しますので、ぜひ参考にしてください。 民間の放射線計測システムで 高線量(例えば2.6μSVとか)が観測されたとありますが、重水素実験とは全く関係ありません。 なぜなら、研究所敷地内で高線量は観測されていないからです。研究所敷地内の環境放射線モニタリングシステムのデータを見ていただければ一目瞭然です。実験が開始されても値は変化していません。 https://sewebserv.nifs.ac.jp/map.php  (外部リンク)もしくは  https://sewebserv.nifs.ac.jp/past.php  (外部リンク)(なお、雨が降ると値が少し上昇しますので、ご注意ください。ガンマ線では200、中性子線では20という数字が自然の...

核融合と核分裂のエネルギー比較

核融合も 核分裂 も 原子核の質量欠損 を使ったエネルギーなので、少量の燃料で大きなエネルギーを得ることができます。工学的に大きな意味はないのですが、核融合と核分裂のエネルギーを比較してみましょう。 1個のウラン(U)原子核が核分裂したときに発生するエネルギーは、約200MeV(メガ電子ボルト)です。(MeVは物理で使うエネルギーの単位です。大きさを比較するだけなので、ここでは詳しい説明は省略します)一方、1個の 重水素 (2H)原子核と1個の 三重水素 (3H)原子核が核融合したときに発生するエネルギーは、約17MeVです。そうです、1回の反応で発生するエネルギーは、核分裂の方が核融合より約10倍大きいことが分かります。 ところが、こんな比較もできるのです。同じ燃料の重さから発生するエネルギーの比較です。ウランは水素よりかなり重たいので、燃料の単位重さ当たりで発生するエネルギーは、逆に核融合の方が核分裂より4倍大きくなります。 もっと分かりやすく表現すると、核分裂の燃料ウラン1グラムは「石炭3トン分」のエネルギーに相当します。一方、核融合の燃料(水素)1グラムは「石炭13トン分」に相当します。さらに、これは「石油約8トン分」です。いずれにしても、少ない燃料で大きなエネルギーが得られることにかわりありません。 ※ここでは反応で生まれるエネルギーを計算しました。発電所で電気エネルギーに変換すると、発電効率がかけ算されるので、少し数字が変わります。

核融合発電所で使われる実際の燃料と反応

☆ 核融合発電 に利用される反応は、水素の同位体である重水素と三重水素(トリチウムとも呼ばれます)の融合反応です。 重水素 は、自然の水の中にも含まれる安定な物質です。(水はH2Oなので、Hの部分が水素で、一部が重水素)普通の水素と重水素の自然界の存在比率は、99.985%と0.015%です。少ないように思いますが、海水を含めた水は、地球上に莫大にありますから、重水素は無尽蔵の燃料資源といってよいでしょう。 ☆一方で、 三重水素 は自然界にはほとんど存在しません。また半減期が12年の放射性物質です。ほっておくと弱い電子を放出して、ヘリウムに変わっていきます。ですから、三重水素は燃料資源にはならないのです。だったらどうして核融合発電が成り立つのでしょうか。上の絵を見て下さい。(橙玉が陽子、青玉が中性子を表しています)重水素と三重水素の融合反応で出来た中性子がリチウムに当たって、三重水素とヘリウム(絵の一番右)が出来ています。この出来た三重水素を最初の融合反応に使うのです。三重水素はグルグル回っているだけで、外から供給する必要はありません。 ☆当然、上の リチウム は外から持って来なければいけません。リチウムは、鉱物、塩湖から採取できる比較的豊富な資源で、パソコンや車の2次電池としても普通に使われています。(リチウムイオン電池とも呼ばれています)また海水にも含まれているので、リチウムの資源量もほぼ無尽蔵です。(海水からリチウムを採取する方法はまだ開発中ですが)そこで、核融合発電の実際の燃料は重水素とリチウムの2つということになるので、核融合発電の燃料資源が無尽蔵といえるわけです。 ☆上の絵を見て、反応の後に残るもの(灰とも言います)が何か分かりますか。ヘリウムだけですよね。ヘリウムは安定で無害、温暖化ガスでもオゾン層破壊物質でもありません。外に捨てても問題ありませんが、貴重な資源なので、再利用しましょう。 ☆ 三重水素 は放射性物質ですが、上の上の絵のとおり発電所の中で循環しています。その量は1つの発電所の中で5キログラム程度です。(原子力発電所内の放射性物質の量と比べると桁違いに少ないです)金属の容器や配管の中に(何重にも)閉じ込められているので、外には出てきません。回収しきれないものが外に出てくるかもしれませんが、その量は法...

核融合が起きるしくみ

☆核融合というのは、2つの原子核をくっつける(融合)させることです。その仕組みについてお話ししようと思います。2つの原子核をその直径程度の距離(1兆分の1センチメートル)に近付けると強力な引力が働きます。これを核力と呼びます。そして原子核同士が融合します。これが核融合です。引力が働いてくっつくので、なんか簡単なことのように思えます。 ☆ところが、この距離から少しでも離れていると、今度は逆に反発力が働くのです。原子核(陽子)がプラスの電気を帯びているので、電気(静電)的な反発力と呼びます。そして比較的遠くまで働きます。さて困りました。核力が働く距離に近付けるまでは、この反発力に打ち勝たなければいけません。 ☆この状況は、上の絵のように、山状になったグリーンの頂上にあるカップにゴルフボール(赤い玉)を入れるのに似ています。カップに向かってボールを打ち、見事カップに入ると穴に落ちていきます。(これで黄色の玉と赤い玉が融合)上り坂が反発力で、カップの穴に落ちるのが吸引力です。このたとえのように、核融合を起こすのは結構難しいことなのです。 ☆核融合を起こすためには、電気的な反発力に打ち勝つだけの力(速度)を原子核に与えなければいけません。 核融合発電 の場合は、水素の同位体( 重水素 と 三重水素 )の原子核に、毎秒1,000キロメートルという速度を与える必要があります。これを温度に換算するとなんと 1億度 になります。そして上手く2個の原子核を衝突させることができたら、今度は核力による引力が働くことで、大きなエネルギーが発生します。これを利用するのが プラズマ (希薄な高温ガス)を利用した 核融合発電 で、今、 全世界で研究 が行われています。 ☆ちなみに、ウラン235に中性子が吸収されて分裂が起こる核分裂反応では、中性子が電気を帯びていないので、上の核融合のような反発力が働きません。だから核融合より簡単に起こすことができるのです。